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2015.08.14

◆音楽四方山話◆第5回 旧館サルベージ企画 その2 この世の煩わしさをなくすもの

第5回では、旧館サルベージ企画第2弾として、「この世の煩わしさをなくすもの」という、ちょっと気恥ずかしいタイトルの回を再録します。前回同様、今読むとちょっとどうか、というような箇所もありますが、若書き、ということでそのまま収録しました。基本的に見栄えを良くしたくらいです。それではどうぞ。
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2001.02.04 UP
この世の煩わしさを無くすもの

「この世の煩わしさ」を無くすもの、それは音楽。と書くと、ちょっと唐突と言うか強引な出だしであるが、今回は、「この世の煩わしさ」という意味を持つちょっとひねくれた名前のグループ、THIS MORTAL COILについてである。

THIS MORTAL COILは、英国の4ADというインディーズレーベルを主宰する、アイヴォ・ワッツ・ラッセルという人物が中心になって作り上げたユニットである。4ADというレーベルは、インディーズレーベルの中でも、とりわけレーベルカラーというか特色がはっきりしているレーベルなのだが、その特色は、なかなか言葉にするのは難しい。一言で言えば「耽美」ということになるだろうか。その感覚を実感してもらうには、むしろ、店頭で4ADレーベルの作品のジャケットを眺めてもらう方が早いかも知れない。コクトー・ツインズ、デッド・カン・ダンスと言った、4ADの代表的なアーティストの作品はいずれも美しいジャケットに包まれている(23ENVELOPEという集団によるもの)。
それもただ単に美しいだけでなく、癖のあるというか毒のあるというかそういう美しさだ。4ADの音楽も、そのジャケットのような味わいだと思ってもらえればよい。
もちろん、いろんなアーティストがいるから、その音楽性はひとくくりでは語れないのだが、それでも一聴して、「これは4AD」と判るような特色がどこかにあるのは、やはりオーナーであるアイヴォ・ワッツ・ラッセルがレーベル全体をコントロールしているからだろう。

THIS MORTAL COILはそんなアイヴォの大好きな曲、MODERN ENGLISHの「SIXTEEN DAYS」と「GATHERING DUST」という曲を録音してみたいという想いから始まったという。
その計画は乗り気でないメンバーを無理矢理説得するような形で(笑)実施され、更にレコードとして発売するのであればB面曲も必要ということで、コクトー・ツインズのエリザベス・フレイザー他のメンバーによりティム・バックレーの「SONG TO THE SIREN」が追加録音された。12インチシングルとして発売されたレコードは大ヒットし、結局引き続きアルバム(『IT'LL END OF TEARS』邦題『涙の終結』)が作られる事になる。
先の12インチシングルのB面曲である「SONG TO THE SIREN」他、6曲のカバー曲と、それをつなぐ美しいインスト曲からなるというスタイルで、このスタイルはその後の2nd(『FRIGREE AND SHADOWS』邦題『銀細工とシャドー』)、3rd(『BLOOD』邦題『ブラッド』そのまま(笑))にも引き継がれる。
残念ながらこの3rdが彼らの最後のアルバムとなってしまった。

私が、THIS MORTAL COILと出会ったのは、たしか2ndが出て間もない頃である。EST-1にあるワルツ堂(註 今はもうない)に2ndアルバムの輸入盤が置いてあったのだ。当時は、THIS MORTAL COILはもちろん、4ADについても殆ど知らなかったが、表面に女性の顔右半分、裏面に瞼を閉じた女性の眼のモノクロ写真をあしらった、美しいけれども怖いジャケットには非常に惹かれるものがあった。ワルツ堂へ行く度に、そのCDを手にしてしばらく眺めるのが恒例行事のようになっていたが、何しろどんな音なのか、さっぱり判らなかったので購入するには至らなかった。
結局、購入したのはそれからしばらくして国内盤が出てからだった。その頃には(どこから情報を得たのか憶えていないが)大体どんな音かという情報も掴んでいたので国内盤が出るとすぐ購入したと思う。ポスター仕様になっている美しいブックレットをしばらく堪能した後、音の方を聴いてみた。
弦楽器による美しいインスト曲がまず流れ、続いて鳥の声とコーラン?の詠唱のSEに続いて男性歌手による深みのあるヴォーカル曲「THE JEWELLER」が聞こえてくる。その時点で、もうこのアルバムを気に入っていたように思う。単に気に入ったというだけでなく、非常に印象的というか、衝撃的だった。4ADの作品はこれが初体験だったせいもあるだろうし、私にとってはあまりそれまでに聴いたことのないタイプの音楽だったせいもあると思うが、それから10年以上経った今改めてこのアルバムを聴いても全く古びていないばかりか、新鮮に聴こえるのには驚かされる。
その後、遡って1stを購入し、さらにコクトー・ツインズやデッド・カン・ダンスといった4ADレーベルの世界にはまることになるのだが、そのきっかけはやはりこのTHIS MORTAL COILの2ndである。

THIS MORTAL COILの音楽を大きく特色づけているのが、そこで取り上げられた多数のカバー曲だ。
もともと過去の名曲をカバーしたいという動機から始まっただけあって、どのアルバムでも多彩なアーティストの曲が取り上げられているが、とりわけ世間一般では評価が低い、という以前にあまり知られていないシンガーソングライターの人々に対する比重が高い。具体的には、ティム・バックレー、アレックス・チルトン、ロイ・ハーパー、ジーン・クラークと言った人々である。
最近でこそ、こういったアーティストもそこそこ知名度があがり、大手のレコード屋へ行けばCDも沢山並んでいるようになったが、THIS MORTAL COILが活動していた80年代後半にはまだまだマイナー以前の存在でしかなかった。THIS MORTAL COILの活動とヒットは、多くの人にとってこういったアーティストに対する再評価(あんまり好きでない言葉であるが)のきっかけにもなったようだ。
私個人も例外ではなく、先に上げた人たちは皆、THIS MORTAL COILを通して教えてもらい、好きになった人たちである。カバーを先に知ってそれからオリジナルに遡るというのは少し邪道のような気がしないでもないが(笑)、まあ、それも楽しみ方の一つではある。後半ではその人たちについて書くことにしよう。

◆ティム・バックレー◆
最近では、「ジェフ・バックレーのお父さん」と言った方が通りがいいのかも知れない。息子さん同様、若くして亡くなったシンガーソングライターである。THIS MORTAL COILの作品として最初に世に出た12インチシングルに納められていた「SONG TO THE SIREN」はこの人の曲であり、それ以外に、2ndでは「I MUST HAVE BEEN BLIND」、「MORNING GROLY」の2曲が取り上げられている。
基本的には、フォーク系の人であるが、作によってはサイケ/アシッドフォークな音だったり、ジャズっぽい路線だったりしている。「SONG TO THE SIREN」は6th『STARSAILOR』に、「I MUST HAVE BEEN BLIND」は、4th『BLUE AFTERNOON』に、「MORNING GROLY」は2nd『GOODBYE AND HELLO』に収録されている。
晩年の作品はやや散漫な印象もあるが、それ以前、特に初期から中期にかけての作品にはなんとも言えない透明感と叙情がある。更にこの人は曲の良さもさることながら声が素晴らしい。低音から高音まで安定して伸びのあるヴォーカルは驚異的である。スタジオアルバムも良いが、ライヴアルバム(何作かあるが『DREAM LETTER』がお勧め)ではよりいっそうその素晴らしい声を満喫できる。
ちなみにTHIS MORTAL COILのカバーでは、「SONG TO THE SIREN」でエリザベス・フレイザーが本家にも劣らぬヴォーカルを聴かせてくれる。ブルガリア民謡の唱法にも影響を受けた彼女独特の節回しで歌われるこのバージョンも捨て難い。「I MUST HAVE BEEN BLIND」はRICHENELという男性によるヴォーカル、「MORNING GROLY」では、DEIDRE RUTKOWSKIという女性ヴォーカルによって歌われているが、どちらも比較的原曲に近いイメージ。こちらも独特の味わいがある。

◆アレックス・チルトン◆
BOX TOPSというグループのリードヴォーカルとして、アイドル的なデヴューをした人であるが、その後はどちらかと言えば裏街道一直線(笑)という感じの人生を送っているようだ。70年代にはBIG STARという伝説的なグループを結成していたが、その解散後はもっぱらソロとしていろんな意味でユニークなアルバムを作り続けている。再評価後は、特にグランジ世代の絶大な支持を受け、TEENAGE FUN CLUBと一緒にツアーをしたりもした。
THIS MORTAL COILのカバーは「KANGA ROO」と「HOROCAUST」。
2曲とも、BIG STARの3rdアルバムの曲であるが、静かな、もの悲しい感じの曲で原曲に比較的忠実な演奏である。元のアルバム自体は決してそういう曲ばかりではなくて、むしろポップな曲の方が多いのだが、なぜかとりわけ暗い2曲が選ばれている(笑)。まあ、THIS MORTAL COILの音楽性にはその方がマッチしたからだろうが。
私がTHIS MORTAL COILにはまった頃は、BIG STARのアルバムはCD化されていなくて入手できず、代わりに(と言うかALEX CHILTONの名前だけを頼りに)、『HIGH PRIEST』というソロアルバムを入手した。これはBIG STARとは、ましてやTHIS MORTAL COILの音楽性とは程遠い、いい意味で肩の力が抜けまくったサウンドだったのだが、これにまたはまってしまい、しばらくの間ALEX CHILTONを必死で捜索するような日々が続いた、そんな事もあったなあ…。
ちなみに、一昨年出た彼の今のところ最新作のタイトルは『LOOSE SHOES AND TIGHT PUSSY』(^^;。う~む、彼らしい…。

◆ロイ・ハーパー◆
これまたアレックス・チルトン同様、「裏街道」系の人である(笑)。イギリスのフォークシンガーであるが、知る人ぞ知る伝説の人でもある。レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジが、ロイ・ハーパーの熱心なファンで、3rdアルバムの最後の曲を「HATS OFF TO (ROY)HARPER」(ロイ・ハーパーに敬礼)と名付けているとか、何度か共演しているとか、ピンク・フロイドの『炎』の中の「葉巻はいかが」はこの人がリード・ヴォーカルだとか、どちらかと言えば「ミュージシャンズ・ミュージシャン」的な存在であるようだ。
もっとも、私自身は、2,3枚アルバムは聴いてみたものの、今ひとつはまることができなかった。
そう言う訳で、THIS MORTAL COILのカバーした曲「ANOTHER DAY」もオリジナル曲は実は未聴だったりする。カバー曲自体は、結構好きなんだけどねえ…。

◆ジーン・クラーク◆
言わずと知れた、バーズのオリジナルメンバーの一人だった人である。初期のバーズに置いては音楽面でイニシアチヴを取っていたが、その後脱退した(飛行機が嫌いでツアーに出るのを嫌がったためとか言われているが結局はバーズが「ロジャー・マッギンのグループ」になってしまったからだろう)。脱退後はソロアルバムを作ったり、ダグ・ディラードとDILLARD&CLARKというデュオを組んだり、またバーズと一時的に寄りを戻したりと色々と活動していたが、結局あまり表に出ることなく、1991年に亡くなった(合掌)。
THIS MORTAL COILのカバーは「STRENGTH OF STRINGS」と「WITH TOMORROW」の2曲。う~ん、渋いッスねえ。「STRENGTH OF STRINGS」の方は、3rdソロアルバムの『NO OTHER』収録。この『NO OTHER』というアルバム、いささかアレンジが過剰なので、2ndソロ『GENE CLARK』(通称『WHITE LIGHT』)あたりのシンプルさを好む人にはイマイチ受けがよくないのだが、個人的にはなかなか好きである。少なくとも、THIS MORTAL COILの音楽性には合っていると言える。ヴォーカルは、2ndアルバムで一番活躍しているDOMINIC APPELETON、この人のヴォーカルは深みがあって素晴らしい。
「WITH TOMORROW」の方は、『WHITE LIGHT』からの曲。個人的にはアルバム中一番好きな曲だ。このカバーについては、先にオリジナルの方を好きになっていたので、オリジナルがどう料理されているかという、カバー曲の本来の楽しみ方を味わうことが出来た(^^;。ティム・バックレーの「MORNING GROLY」と同じ、DEIDRE RUTKOWSKIのヴォーカルでなかなか味わい深い。がやっぱり原曲には負けてるなあ。

何時の頃からか、「再評価」なるものが一つのムーヴメントのようになっている。忘れ去られていた音楽家や曲を発掘して、評価する作業そのものは尊ぶべきだが、「再評価」したものを自分があたかも発見したような態度を取る人達がいるのはいただけない。数は少なくとも、表には出てこなくとも、「評価」し続けていた人達はいる筈である。今の状況は、「再評価したもん勝ち」のようになってしまっている。
もう一つ、好きだと思うものに「オマージュ」を表する、というやり方もある。これは単なる「再評価」ではなく創作活動である点ではマシだと思うが、行き過ぎると「オマージュ」の名を借りた「パクリ」になってしまう。
その点で、あくまで「カバー」という形にこだわって、しかもただカバーするだけでなくそれをしっかり消化しているTHIS MORTAL COILのやり方は潔いと思う。別にこの曲は誰々の何という曲のカバーだなどと言うことを意識しなくても十分楽しめる。しかも、クレジットを読んで「元の曲はどんなだろう?」という疑問を持てばそこからオリジナルの豊かな世界へ飛び込むことも可能なのだから。

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