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2015.08.30

◆音楽四方山話◆ 第6回 奇盤迷盤珍盤 その1 恐るべし!編曲魔の脅威

ということで、今回はまた新シリーズです(実はこれが音楽四方山話を始める前に企画していたもの)。
今回は、クラシック界の話しですが、全然堅苦しくない、ていうかアバウトな話です(筆者の性格上そうなる)。取り上げるのは、日本人ならお馴染みのベートーヴェンの交響曲第9番”合唱付き”。しかし、「編曲魔」とはいったいどういうことでしょうか?その答えは以下をどうぞ。
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  1. ベートーヴェンとリスト
    今回取り上げるのは、ベートーヴェン(1770年12月16日頃 - 1827年3月26日)の交響曲ですが、実際の主役はフランツ・リスト(1811年10月22日 - 1886年7月31日)です。
    生没年を見れば判るように、二人は、同じ時代に生きていました。祖父と孫、くらいの関係でしょうか。実際に、リストは11歳の時、師に連れられて、晩年のベートーヴェンに会い、その前でピアノを弾いてみたそうです(当時のベートーヴェンは既に聴力を失っていたと言われているので、その演奏を聴けたかどうか疑問ですが)。
    そんな関係ですから、リストはベートーヴェンを尊敬し、その楽曲に強い影響を受けていると言われます。そしてその尊敬がついにリストをある行動に駆り立てたようです。その行動とは?
  2. 「編曲魔」とは?
    クラシック界で、「録音魔」と言えば、パパ・ヤルヴィことネーメ・ヤルヴィのことですが、それは録音した音源が莫大な量になるからです。では「編曲魔」とは何か?文字通り、いろんな作曲家のいろんな曲を、編曲しまくることです。
    リストは、その編曲魔でした。彼の作品には、サール番号と言われる通し番号が付いていますが、ウィキペディアのフランツ・リストの楽曲一覧 (S.1 - S.350)およびフランツ・リストの楽曲一覧 (S.351 - S.999)を見ると、後半のS.351以降は、全て自作曲および他人の曲の編曲です。
    そんな彼の編曲レパートリーは、上記ウィキペディアの一覧表を見れば判るように、実に幅広いのですが、その中にはベートーヴェンも含まれています。しかも交響曲第1番〜第9番まで全て!更に驚くべきことに、それらはピアノ独奏用の編曲なのです。オーケストラの曲をピアノ1台で表現する?そんなことが可能なのでしょうか?しかも、今回取り上げる第9番にはそのサブタイトル通り、合唱まで付いています。難易度高そうです。
  3. 実際に聴いてみよう
    果たしてどんなものなのか、実際に聴いてみたいと思います。この独奏ピアノ版は、シプリアン・カツァリスによって、全曲録音されています。今、手元には、第1番〜第9番までの全集がありますが、その中から第9番”合唱付き”を聴いてみましょう。
    一応、通常のオーケストラ版との聴き比べ的なこともしてみたいと思います。オーケストラ版に使ったのは、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮、シュターツカペレ・ドレスデン演奏のものです。
    1. 第1楽章
      まずはオーケストラ版の方を聴いてみましょう。静かなイントロから、雄大な第1主題が奏でられます。ティンパニとかも入ってかなり分厚い音ですが、これを再現できるのでしょうか?
      第1主題についで、穏やかな第2主題に入ります。その後は、いくつかの主題を複雑に絡み合わせ、山あり、谷ありの展開を見せますが、前半が終わった辺りに、大きな山があります。ティンパニ連打とかもあるクライマックスです。ここがどう再現できるのかが聴きものですね。
      その後はまた山あり谷ありの展開を見せ、最後は再び第1主題が奏でられて、終わります。
      それではピアノ独奏版です。う〜む、オーケストラ版を聴いた直後に聴いてしまうと、かなり音数が少ないです。だいぶん端折ってある感じですね。まあ、そもそもピアノ1台、2本の手で、オーケストラを完全に再現出来るはずもないので、この辺は仕方のないところでしょうか。
      それでも、重要なメロディーだけを残し、あまり必要性のない音はバッサリカットするあたりのやり方は見事なものです。心配していたティンパニの音も、低音部の不協和音でそれらしく表現されています。
      前半終了前後のクライマックスは、さすがにちょっと迫力不足という感じですね。
      全体的に、右手高音部、右手中音部、左手中音部、左手低音部、という4つくらいのパートに分けて、各楽器を割り振っているような感じですが、当然全楽器の音が演奏される訳ではなく、また、パートへの割り振りも、その場に応じてかなり柔軟にされているようです。
    2. 第2楽章
      それでは第2楽章、まずはオーケストラ版です。第1楽章同様、いくつかの主題が絡みあいながら進行していきますが、この楽章ではとりわけティンパニの存在が重要です。他の楽器が鳴っていない、または殆ど鳴っていない箇所で、ティンパニの音だけが鳴り響くというパターンが多く、ティンパニソロ、と言っても良いくらいです。ピアノ独奏版、第1楽章では、低音部の不協和音でティンパニの音がそれらしく表現されていましたが、この第2楽章ではどうなるか聴きものです。
      それではピアノ独奏版を聴いてみます。懸念事項だった、ティンパニソロですが、低音部を不協和音で思い切り強打して、それっぽさを出してはいるものの、オーケストラ版の、いきなり鳴り響くティンパニの破壊力に比べると、かなり迫力不足です。
      更に、ピアノ独奏版の不利になる事柄が明らかになりました。ピアノと言う楽器は、その構造上、同じ音を連続して長く発することが出来ません。この第2楽章の主題の一つは、管楽器群がメロディーを奏で、弦楽器がそれの伴奏的に同じ音を長く出す、ということで美しい構造になっていますが、ピアノ独奏版では、管楽器のメロディーは再現出来ているものの、弦楽器の伴奏音は、さすがに同じキーを連打すれば良い、という訳にもいかず、かなり苦労しているような感じがします。
    3. 第3楽章
      さてオーケストラ版の第3楽章です。第1、第2楽章がかなり起伏に富んだ、山と谷という感じなら、この第3楽章は丘と小川という感じでしょうか。弦楽器と管楽器が絡みあいながら、ゆるやかに上昇し、またゆるやかに下降する、そんな感じで進んでいきます。これなら、ピアノ独奏でも結構それらしい感じに再現できるのではないでしょうか?
      それではピアノ独奏版です。うん、これは良いですね。今までの中では一番上手くいっている感じです。主旋律は、右手でほぼオーケストラ版通りに再現し、伴奏というか通奏低音的な部分は、左手でかなりアレンジしてありますが、上手く処理されています。
    4. 第4楽章
      さあ、いよいよ難関の第4楽章です。この第4楽章はかなり複雑な構成を持っています。初めて聴いた時は、なんだかとっちらかった印象を受けました、何度も聴いた今では、だいぶん慣れましたが、それでも文章で紹介するというのはなかなか難しいです。
      オーケストラ版ですが、まず雷鳴のような一撃に続いて、低音弦楽器による第1主題が奏でられます。その後もちらと例の「歓喜の歌」の有名なメロディーを交えつつ、複数の主題が奏でられ、いよいよ声楽パートが始まるのは、開始から5分以上経ってからです。
      最初は、男声ソリストによる独唱で始まり、それを受ける形で合唱パートへ入るというパターンが多いです。「歓喜の歌」の大合唱は、前半が終わった頃にようやく出てきます。そのまま盛り上がって終了かというと、さに非ず。それはすぐに終わってしまって、また別の主題が始まり、それが二度ほど繰り返された後、ようやくエンディングを迎えます。
      さて、それではピアノ独奏版です。導入部は、なかなかうまく再現されています。雷鳴のような一撃は、例によって不協和音を含む低音部の強打で再現。間に挟まる美しい旋律との対比がなかなか見事です。
      ということで、オーケストラ部分はなかなか上手くいっているのですが、声楽パートに差し掛かると、さすがにかなり苦戦しています。声パートに手一本取られてしまうため、オケパートは残る手一本で高音部から低音部まで奏でなければなりません。かなり忙しそうです。やはり合唱部分まで、ピアノ1台で再現するというのは無理があると言えるでしょう。
    5. 総評
      ということで、通して聴いてみました。オーケストラ版との聴き比べという形を取ったため、どうしても評価がネガティヴになった嫌いはあります。
      オーケストラ版をあまり意識せず、最初からピアノ独奏曲だと思って聴けば、かなりいい演奏だと思います。第9を聴きたいけど、オーケストラ版を聴くのはちょっと重いなあ、というような時に、代替手段として聴くのもよろしいかと。

    と言う感じの印象を持った訳ですが、文字じゃあはっきり判らないよ、という人は、幸いyoutubeに動画(静止画のみ)が上がっているので、それを聴いてみてください(1時間5分あります)。

  4. 2台ピアノ版もあった!
    上記のyoutube動画は、”beethoven liszt symphony 9”というキーで検索して見つけたものですが、その3つ4つ下に、「Beethoven/Liszt: Symphony No.9 for 2 Pianos」というのもありました。え、2台ピアノ版もあったの?と思って、上記のwikipediaのリスト編曲集を見てみると、確かに「2台のピアノのための編曲作品」の中にベートーヴェンの交響曲第9番があります。ただし、独奏版のほうは、第1番〜第9番まであるのに、2台ピアノ版のほうは第9番だけです。さらに、編曲年月を見ると、2台ピアノ版のほうが1851年、独奏版のほうが、1863〜1864年と、2台ピアノ版のほうが早いのです。
    おそらく、リストは、最初のうち、1台のピアノ用に編曲するのは難しいと考えて、2台ピアノ版を書いたのではないでしょうか?それで自信を付けて、第1番〜第9番までの独奏版を書いたのではないか?と推測します。
    その2台ピアノ番も、youtubeで聴いてみましたが、第1楽章〜第3楽章までは、手の数が倍になっている訳ですが、あまり音数も倍、とは感じませんでした。手三本くらいな印象です。よく聴いてみると、2つの手でわざと同じかごく近いキーの音を出して、音に深みを持たせる、というような技巧も使用しているようです。
    しかし、第4楽章になって、声楽パートが入ると、さすがに4本の手全てを使っているな、というのが判りました。声パートも、場合に応じて、男声パートと女声パートを2本の手で弾き分けたりしています。
    とりあえず、両方の版を聴き比べて思ったのは、まあ、演奏者の差、ということもあるかも知れないですが、第1楽章〜第3楽章までは、独奏版のほうがスッキリしてていいな、第4楽章はさすがにピアノ1台ではしんどいので、2台ピアノ版のほうがいいな、という感想でした。それなら私も独奏版と2台ピアノ版聴き比べてみたいという人のために、2台ピアノ版のyoutubeも貼っておきます。









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