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February 2017

2017.02.15

◆音楽四方山話◆ 第16回 そして3人が残った

と言えば、もちろん英国プログレバンド、ジェネシスの1978年発表のアルバム『そして3人が残った』(原題『...And Then There Were Three...』)ですね。スティーブ・ハケット(Gt)の脱退により、フィル・コリンズ(Dr/Vo)、マイク・ラザフォード(Bs/Gt)、トニー・バンクス(Ky)の3人体制になってしまったことから名付けられたアルバム名ですが、今回はちょっとひねくれて、ジェネシスではなく、もう1つの「3人になってしまったバンド」、即ちジム・モリソン(Vo)の死により、レイ・マンザレク(Ky)、ロビー・クリューガー(Gt),ジョン・デンズモア(Dr)の3人体制になってしまった、ドアーズのその3人体制時代について書いてみたいと思います。



ジム・モリソンというあまりにも巨大なカリスマの死後、残された3人のメンバーはドアーズとしての活動を続けることを選択する。しかし、その活動は地味なものにならざるを得なかった(ジム・モリソンの死の直後、ドアーズは解散した、と思っている人も多いのではないだろうか?)。
彼らは、1971年に『Other Voices』、翌1972年に『Full Circle』の2枚のアルバムをリリースするが、米ビルボードチャートは、それぞれ31位、68位(米版Wikipediaに依る)と振るわなかった。結局この2枚を残して、3人体制のドアーズは活動を終了することになる。
それでは、さっそくその2枚のアルバムを聴いてみよう。まずは『Other Voices』から。

Other Voices(Elektra)

A1.In The Eye Of The Sun
A2.Variety Is The Spice Of Life
A3.Ships w/ Sails
A4.Tightrope Ride

B1.Down On The Farm
B2.I'm Horny. I'm Stoned
B3.Wandering Musician
B4.Hang On To Your Life

A1:ミドルテンポの、軽快な感じのする曲。ドアーズ特有の 、グルーヴ感が感じられる。ヴォーカルはレイ。長めの間奏はややだれるが、最後の方、ギター、ベース、オルガンが一体となって間奏を終結させる流れはかっこいい。ただ、アルバムの1曲めとしてはやはり地味。
A2:いきなりドラムの連打で始まり、オルガンが後を取って展開していく曲。1曲めよりはグルーブ感が強いし、派手だ。こっちを1曲めにしても良かったのでは?ヴォーカルはレイとロビーのツインヴォーカル。
A3:7分半ある長い曲。静かに始まり、次第に盛り上がっていく曲だが、いまひとつ盛り上がれずに終わってしまう。間にヴォーカル部を挟んだ、長いインストゥルメンタル部は、もう少し整理したほうが良かったのでは?、と思えなくもない。全編でコンガが入っていて、レイのオルガンと合わせて、どこかエキゾチックなムードがある。ヴォーカルはロビー主体でレイがバックを取るスタイル。
A4:かっこいいギターのリフから始まる良曲。ドアーズ特有の、うねるようなグルーヴ感あり。ヴォーカルはレイがメイン。
B1:レイのオルガンから始まる、スローバラード、と思わせて、途中からテンポが上がったり、またスローになったりと、複雑な構成の曲。最後の部分は、レイのオルガンが「ハートに火をつけて」あたりを思わせる音色で、ヴォーカルも渋く決まる。
B2:オルガンから始まり、ベース、ドラム、ギターの順で参加していって盛り上がる曲。サビ部分は結構かっこいい。ヴォーカルはレイ、ロビーのツインスタイル。
B3:6分を越える長めの曲。レイのオルガンによる、長いイントロから始まり、ヴォーカル部は少なめのインスト主体の曲。そう考えると、やや地味。ヴォーカルはレイがメイン。
B4:ドラムとコンガから始まり、その後もパーカッションがうまく使われている印象に残る曲。レイとロビーのツインヴォーカルも力強い。終わった、と思わせておいて、まるきり違う感じのインスト部に突入し、また唐突に(今度こそ)終わる。やや整理が必要か、と思わせる曲。

ということで、アルバム全8曲を聴いての印象は、今回この記事を書くために聴き直した訳だが、初めて聴いた時よりは好印象。なかなか良い曲もある。
ただ、アルバム全体を通してみると、どこかとっちらかった感があるのは否めない。とりあえず、持っている手札全部晒してみたけど、まだ何の役もできていない、あるいは仏作って魂入れず、みたいな感覚がつきまとう。
ここからは妄想だが、4人体制時代のままの音にするか、過去とは決別して、新しい音を追求するか、3人にも迷いがあったのではあるまいか。
やはりジムという中心というか核があってこそ、まとまっていたバンドなんだな、と改めてジム・モリソンの不在を痛感させられた。

続いて、『Full Circle』。

Full Circle(Elektra)

A1.Get Up And Dance
A2.4 Billion Souls
A3.Verdilac
A4.Hardwood Floor
A5.Good Rockin'

B1.The Mosquito
B2.The Piano Bird
B3.It Slipped My Mind
B4.The Peking King And The New York Queen

A1:オープニングにふさわしいキャッチーなノリの曲。どことなく、ソウルというか黒っぽい感じがする(女性バックコーラスが入ってる辺りか)。ヴォーカルはいつになく力強い感じのレイ。
A2:これは明らかにロビー中心の曲。ヴォーカルも、目立っているギター(アコギとエレキをうまく使い分け)も。対してレイのオルガンは本当にひっそりという感じで演奏されている。これもけっこうキャッチーで悪い曲ではない。
A3:即興音楽っぽいイントロで始まる曲。ロビーのワウワウギターや、サックスの音などはかなりサイケっぽい。一応ヴォーカル部分はあるもの、楽器の演奏が主体である。
A4:一転して、レイ中心の曲。ホンキートンク調のピアノとオルガンをうまく弾き分けている。女性バックコーラスやら、各種パーカッションも入って、ゴージャスな印象を与える。ハーモニカはロビーによるもの。
A5:4人体制時代のドアーズを彷彿とさせる曲。各楽器のバランスが良く、まとまりを感じる。ジムがヴォーカルを取っていたとしても、違和感はなかっただろう。
B1:ラテン風なヴォーカル(レイでもロビーでもないように聞こえるが誰が歌っているのか?)パート→パーティ会場っぽいSE主体のパート→再びラテン調ヴォーカルパート→即興演奏というか、ジャムっぽいインストパート。の複雑な構成の曲。このアルバムの中心的存在と言うべきか。
B2:ロビーのヴォーカル中心の曲。パーカッションやフルートも入っているが、今ひとつまとまりがなく、散漫な印象を与える。
B3:ヴォーカル、楽器共にレイとロビーががっつり組み合った、という感じの曲。そこにジムが入る余地はないだろう。
B4:再び、4人体制時代を思い起こさせる曲。ジムがヴォーカルを取っていたら、それなりに名曲になったかも知れないが、レイではやや力不足なのを否めない。

アルバム通しての感想は、曲単位ではけっこういい曲が多いが、全体を見るとまとまりがない印象を受ける。4人体制時代を思わせるA5、B4のような曲もあれば、A4やB3のように、明らかに新天地を切り開こうとしたと思える曲もある。
女性バックヴォーカル(クレジットにはクライディア・キングの名前も)やパーカッション、サックスやフルートの導入など、全般的には新しい方向へ舵を取ろうとしているように思える。が、成功しているとは言い難い。

結局2枚のアルバム通しての印象は、やはり「ジム・モリソンの不在」これに尽きる。いい曲もあるのだが、それはあくまで「あのジム・モリソンのいたドアーズの曲」というのを前提にしない上での評価だ。
残された3人にとって、「ドアーズ」の名前を使うのが、どういう意味を持つ行為なのかを、どれだけ意識していたのかは判らない。
しかし、4人体制時代でも、実際に曲を作る上では、自分たち3人もそれなりに貢献していたはず、という自負のようなものはあったと思われる(実際に、ドアーズの曲の大半は、レイとロビーによるもの、という説もある)。それだからこそ、敢えて解散や別名義での活動ではなく、「ドアーズ」の名前を引き継ぐことにしたのだろう。それが容易な道でないことは、おそらく残された3人が一番よく判っていたはずだ。

ちなみにこの2枚のアルバムであるが、私の所有しているのは、2in1で2枚のアルバムを1枚にした、Butterfly Productionsというレーベルから、1995年に出たものだが、これは正規盤ではないようである。
正規盤としては、2015年にRhinoからデジタル・リマスタリングされ、シングルB面曲を1曲追加した2枚組が出ているようなので、興味のある人はそちらを購入するべきだろう。


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さて、3人体制でのドアーズの活動は、この2枚で終わりを告げるのだが、もう1枚、どうしても取り上げざるをえないアルバムがある。それが1978年に、「Jim Morrison music by The Doors」というややこしい名義で発表された『An American Prayer』というアルバムだ。
これは、ジム・モリソンの死後、残された音源を調べた際に、詩の朗読という形で録音されたテープが見つかり、それに3人体制ドアーズが音楽を付ける、といういわば3.5人体制で作られたアルバムだ。


(クリックするとamazonに飛びます) An American Prayer(elektra)
Awake
 1.Awake
 2.Ghost Song
 3.Dawn's Highway
 4.Newborn Awakening
To Come Of Age
 5.To Come Of Age
 6.Black Polished Chrome
 7.Latino Chrome
 8.Angels And Sailors
 9.Stoned Immaculate
The Poet's Dreams
 10.The Movie
 11.Curses, Invocations
World On Fire
 12.American Night
 13.Roadhouse Blues
 14.The World On Fire
 15.Lament
 16.The Hitchhiker
An American Prayer
 17.An American Prayer
 18.Hour For Magic
 19.Freedom Exists
 20.A Feast Of Friends
Bonus Tracks
 21.Babylon Fading
 22.Bird Of Prey
 23.The Ghost Song
1:これは詩の朗読音源ではなく、ライヴ音源からのもの。ジムが客を煽る際によく使用した、「Wake Up!」という叫び声。
2:詩の朗読音源に3人の演奏をかぶせたもの。ジョンの呪術的な印象のするドラムを中心に、3人の演奏はよくまとまっており、ジムの朗読とも良く合っている。4人体制ドアーズのアルバムの中に入っていてもおかしくない出来栄え。
3:ジムのつぶやくような朗読メインの曲。演奏は付与されておらず、風の音やパトカーのサイレンの音などのSEが控えめにかぶせてある。
4:3人の息の合ったイントロに始まり、ジムの朗読が少しあった後、ジムが歌い出すが、この形で残されていたのか、どこかの音源から引っ張ってきたのかは不明。後半は演奏控えめに、朗読メインになる。これも「曲」として成り立っている。
5:これも朗読メインで、SEが控えめにかぶせてあるだけ。
6:3人の演奏はよくまとまっているが、朗読との相性はいまひとつ悪い。
7:3人+αの演奏にうまく朗読が乗っている。成功例。
8:ジムの朗読がひときわ印象的なトラック。中間と最終部に3人の演奏をバックにジムが歌っている部分があるが、これはライヴ音源かなにかから引っ張ってきたものと思われる。
9:これも3人の演奏+ジムの朗読が成功した曲。もともとの詩の朗読が、ややメロディがついたような、抑揚に富んだものなので、演奏との相性も良い。
10:SEに近いレイのシンセ音をバックに、ジムの朗読がひときわ印象的なトラック。ジムの声を左に振ったり、右に振ったりという小細工も成功している。
11:3人の演奏に事務の朗読が乗るパターン。演奏と朗読の相性も良く、これも成功したトラック。
12:ジムの朗読の間に、レイのピアノ不協和音が轟く。後半は観客の声が重なり、そのまま次のトラックへ。
13:これは詩の朗読ではなく、ライヴ音源を1曲まるごと収録。曲が終わった後の、ジムのMCや観客の歓声もかなり長く収録して次のトラックへ。
14:前のトラックからの、観客の歓声に銃の発砲音がかさなり、ジムの朗読、女性の話し声などが入り乱れて終わる。
15:ジムの朗読メインの曲。中間部ではロビーのギターが、終結部ではレイのオルガンが、後ろで奏でられる。
16:ジムの朗読で始まり、やがて背後で「ライダース・オン・ザ・ストーム」がそのまま流れたあと、フェイドアウト。
17:ジムの朗読と演奏との相性は良い。このアルバムの中でも1,2を争う出来映えだろう。さすがにアルバム・タイトルになるだけのことはある。
18:ジムの朗読と3人の演奏。3人は、「ジ・エンド」のイントロ部分を弾いている。
19:ジムの朗読だけの短いトラック。
20:ジムの朗読の背後で緩やかに演奏が始まり、クラシックの有名な曲(作曲家とタイトルが出て来ん)を演奏する。珍しく3人の演奏の方が印象的な曲。
21:水音、クジラの鳴き声などのSEを背景に、ジムの朗読。ジムが語った単語に対応したSEが流れるところが面白い。
22:ジムの朗読そのものが、メロディを伴って歌うように語られている。その朗読だけで十分と判断したのだろう、演奏は付け足されていない。
23:2曲めに「The」を付けた曲名だが、中身の方もほぼおなじ。ややこちらのほうが演奏がアグレッシヴか。曲の終わった後、1分くらいの無音部分に続いて、シークレットトラックが収録されている。ジムの朗読だけの短いもの。

こちらの方も、この記事を書くために久しぶりに聴いた。曲紹介で触れたように、ジムの詩の朗読に曲を付ける、という試みは、成功している曲もある反面、イマイチ冴えない曲もある。そういう面で、アルバム全体の評価はしにくい。
しかし、3人体制の2枚のアルバムでは、絶対的に足りなかったものが、こちらにはある。即ちジムの声である。それがあるだけで、曲が引き締まったような気がする。実際のところ、3人のプレイも、3人体制の2作品よりもこちらのほうが充実しているように聴こえるから不思議だ。
やはり、ドアーズというバンドは、ジム・モリソンという核があってこそのバンドだった、ということを再度認識させられたのだった。

                  了

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