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June 2017

2017.06.16

●聖から俗へ〜彼女の場合〜●

前回記事がかなりヘヴィだったこともあり、つい間が空いてしまいましたが、今回はもっとあっさりした記事になる予定です(あくまで予定)。



今回のタイトル、「聖から俗へ」とは、かなり連想が拡がりそうな言葉です。いろんな場合が想定されそうですが、拡げると収集がつかなくなるので、狭い範囲とします。即ち、この記事での「聖」とは、黒人宗教音楽、いわゆるゴスペルやスピリチュアルのことを、「俗」とは世俗音楽のことを示します。ただし、単に「世俗音楽」と言うとかなり範囲が広がってしまうので、ここでは、「世俗音楽」=1940年代〜1950年代にかけて、発達していったリズム&ブルース(「アール・アンド・ビー」ではないよ)、ソウルあたりの、ゴスペルとも深い関係のある大衆音楽のことを指します。
そういった大衆音楽の歌い手の殆どは、言うまでもなく、ゴスペルを根本に持ち、そこから進化していきました。それゆえの「聖から俗へ」なのですが、ここでは、もっと具体的に、ゴスペルで活躍し、後に大衆音楽の世界へ進出した歌手のことを取り上げることとします。
そこで、サブ・タイトル「彼女の場合」とはなんでしょうか?これは、今回のテーマのなかでも、具体的な歌手、1人の女性歌手に、フォーカスを絞ることを示します。
ゴスペル出身の大衆音楽家で女性?アレサ・フランクリンでしょうか?残念ながら違います。今回取り上げるのは、(Sister) Wynona Carrです。何故「Sister」を括弧でくくったか?その理由は後で出てきます。

1.ワイノナなの?ウィノナなの?
本題に入る前に、ちょっと気になるのが、「Wynona」という名前の発音です。ググってみると、「ワイノナ・カー」が189件、「ウィノナ・カー」が160件と結構別れます。google翻訳では、「ウィノナカー」と翻訳されるのですが、他の翻訳サイト、Excite、Yahoo!、Nifty、Gooでは、「Wynonaカー」となり、翻訳されません。どちらが正しいのでしょうか?
ちなみに似たような名前の人として、ウィノナ・ライダーという女優がいますが、彼女の名前は「Winona」なので、綴が微妙に異なるのです。「Winona」の方は、Gooの辞書で調べても、「女の子の名前」として翻訳されるので、Winina=ウィノナ、として問題ないと思われますが、Wynonaの場合はどうなんでしょうか?
ちなみに、彼女(Sister付きの方)の国内盤CDは『ドラグネット・フォー・ジーザス』(P-Vine PCD-3304)というのが出ていますが、それにははっきり「シスター・ワイノナ・カー」と明記されています。
色々と検索している内に、発音ガイド Forvo。というサイトに行き当たりましたが、ここで、「Wynona」を発音記号に変換すると、「waɪˈnəʊnə」となり、「Winona」を同様に変換すると、「wɪˈnoʊnə」となって異なっています。発音記号の読み方はあまり自信がないのですが(^^;、「waɪˈnəʊnə」はやはり「ワイノナ」ではないかと思われるので、以降は「ワイノナ」と表記することにします。

2.略歴その1注1
1924年9月23日、オハイオ州クリーブランドに生まれる。本名は、「シスター」なしのワイノナ・カーそのまま。8歳の頃からピアノを習い始め、13歳頃から、地元のパブティスト教会で演奏を始める。25歳頃、姉妹たちと、5人組のゴスペル・グループ、カー・シンガーズを結成。あちこちへツアーにも出かけるようになった。
その頃、ピルグリム・トラヴェラーズのリーダー、J.W. アレクサンダーに目をかけられ、彼の口利きで、Specialtyレーベルと契約、録音をすることになる。

3.「シスター」付きの時代
そんな感じで、幸先よくSpecialtyと契約を交わし、ゴスペル歌手として本格的に活動し始めた訳ですが、その最初のシングルの発売時に、Specialty側の意向で、名前に「シスター」を付けられてしまいました(当時人気があったシスター・ロゼッタ・サープに対抗した?)。シスター・ワイノナ・カーの誕生です。
Specialtyには、1949年2月11日をかわきりに、日付の不明なものも含め、計8回、26曲の録音を行いました。(1952年のセッションでは、ピアノに何とあのチャールズ・ブラウンが参加しています。どういう繋がりだったのでしょうか?)うち、シングルとして発売されたものは計8枚16曲(ブラザー・ジョー・メイとの共演曲含む)と思われます注2
この26曲は、以下のCDで全て聴くことが出来ます。


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Sister Wynona Carr/Dragnet For Jesus (Specialty SPCD-7016-2)
  1. Each Day (SP324) 1949/2/11
  2. Lord Jesus (SP324) 1949/2/11
  3. I Want To Go To Heaven And Rest [take1] 未発表テイク 1949/2/11
  4. I'm A Pilgrim Traveler [take1] 未発表曲 1949/8/1
  5. I Heard The News (Jesus Is Coming Again) [take3] 未発表曲 1949/8/1
  6. Our Father 未発表曲 1949/8/1
  7. He Said He Would [take2] 未発表曲 1949/8/1
  8. I See Jesus (with Brother Joe May) 未発表曲 1950/3/18
  9. Our Father (with Brother Joe May) 未発表曲 1950/3/24
  10. Don't Miss That Train [take3] 未発表テイク 1950/4/10
  11. I Heard Mother Pray One Day (SP364) 1950/4/10
  12. The Good Old Way [take2] 未発表テイク 1950/4/10
  13. See His Blessed Face (SP395) 1950/4/13
  14. Did He Die In Vain? [take1] 未発表テイク 1950/4/13
  15. I Know Somebody God's Gonna Call Me (SP383) 1950/4/13
  16. Conversation With Jesus (SP826) 1950/4/13
  17. The Ball Game (SP855) 19524/8
  18. A Letter To Heaven [take1] 未発表テイク 1952/4/8
  19. In A LIttle While (SP834) 1952/4/8
  20. untitled instrumental [take3] 未発表曲 1952/4/8(推測)
  21. Operator, Operator 未発表曲 1954/5/14
  22. Dragnet For Jesus [take1] 1954/5/14
  23. 15 Rounds For Jesus [take2] 未発表曲 1954/5/14
  24. Nobody But Jesus 未発表デモ 録音日不明
  25. Just A Few More Days 未発表デモ 録音日不明
  26. Our Father (fragmented) (with Rev. C.L. Franklin & The New Bethel Baptist Church Choir) 未発表曲 1954(推測)
あと、ブラザー・ジョー・メイの以下のCDにも、シスター・ワイノナ・カーとの共演作2曲が収録されています。『Dragnet For Jesus』収録の2曲とは被りませんので、そちらも紹介しておきます。

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Brother Joe May/Thunderbolt Of The Middle West
(Specialty SPCD-7033-2)
12. What Do You Know About Jesus? (SP348) 1950/3/18
15. It's All Right [take2] 未発表テイク 1950/3/24

それでは、CDの内容について書いてみたいと思いますが、さすがに24曲ものレビューを各々書く気にはなれませんw。ていうか、レビュー書くより実際に聞いてもらったほうが...。
ということで、毎度ながらyoutubeで検索してみたら、結構ヒットしましたよ。とりあえず代表曲と思われるものを3曲ばかり貼ってみます。

いかがでしょうか?1曲目の「Each Day」なんて、軽やかな感じで、ちょっとシスター・ロゼッタ・サープを思わせるギターも入って、ぱっと聴きゴスペルっぽくないです。
3曲目の「Dragnet For Jesus」は、ちょっと重い、これはゴスペルゴスペルした曲ですが、ちょっと低めのハスキーな声で押してくる感じがいいですね。
そんな風で、軽快な曲からヘヴィな曲まで、なんでもこなす結構器用な歌手という印象を受けます。

4.略歴その2
1949年の初録音後、1954年までSpecialtyレーベルのゴスペル歌手として順調にキャリアを積み重ねてきたシスター・ワイノナ・カーだったが、1955年に、詳しい経緯は判らないが、「何か」があったらしく、同年、「シスター」の取れた、ただのワイノナ・カーとして、セカンドデビューを飾ることになる。しかもその音は、世俗音楽の中でも、ゴスペルとはおよそ対極にありそうなジャンプブルースであった...。

5.ジャンブな時代
そんな訳で、何があったかは憶測の域を出ませんが、1955年、ゴスペル歌手からジャンプブルースなどの大衆音楽歌手に転身することになります。もともと、そっちの方の音楽をやりたいと思っていて、ゴスペル時代は嫌々仕事してた、という説もありますが...。
1つ書いておきたいのは、こういう音楽性の大胆な変更は、レーベルを変えることを伴うのが多いのに、ワイノナの場合は、同じSpecialtyのままだったことです。これには、Specialtyというレーベルの独自さがあると思われます。即ち、サム・クックも在籍した、ザ・ソウル・スターラーズなど、ゴスペル関係に強く、更にロイ・ミルトンなどジャンプブルース関係にも強かったことです。これがゴスペル→ジャンプブルースへの転身がスムーズ(に行ったようにみえる)だった理由の1つだと思われます。
ジャンプブルース歌手としては、1956年から、1959年まで録音を残しました。その録音については、以下のCDで24曲聞くことが出来ます。


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Wynona Carr/Jump Jack Jump!
(Specialty/Ace CDCHD 513)
  1. Jump Jack Jump (SP580, SP2157) 1956/3/14
  2. Til The Well Runs Dry (SP589, SP2157) 1956/10/3
  3. Boopity Bop (Boogity Boog) (SP2157) 1956/10/5
  4. Should I Ever Love Again? (SP589, SP2157) 1956/10/5
  5. I'm Mad Of You (SP650, SP2157) 1958/9/18
  6. Old Fashioned Love (SP683, SP2157) 1959/7/31
  7. Hurt Me (SP580,SP2157)1956/6/15
  8. It's Running Outside ((SP2157) 1955/6/10
  9. Nusery Rhyme Rock (SP575, SP2157) 1956/3/14
  10. Ding Dong Daddy (SP2157) 1955/8/17
  11. Someday, Somewhere, Somehow (SP683, SP2157) 1959/7/1
  12. Act Right (SP2157) 1955/8/17
  13. What Do You Know (About LOve) (SP600, SP2157) 1956/10/5
  14. Now That I'm Free (SP2157) 1956/3/14
  15. Heartbreak Melody (SP600, SP2157) 1955/8/17
  16. Please Mr. Joiter (SP575) 1956/3/14
  17. Whether Man 未発表曲 録音日時不明
  18. If These Walls Could Speak 未発表曲 1955/8/17
  19. Touch And Go (SP628) 1958/1/29
  20. If I Pray (SP650) 1958/9/18
  21. Finders Keepers 未発表曲 録音日時不明
  22. The Things You Do To Me (SP628) 1958/1/29
  23. How Many Times? (SP678) 1959/7/31
  24. Give Me Your Hand To Hold (SP578) 1959/7/1
ただ、『Jump Jack Jump』には、『Dragnet For Jesus』のように詳細なディスコグラフィが付いてないので、これが全録音かどうかは判りません。未発表曲まで収録しているし、収録時間もまだ余裕があるし、あのAce Recordsが出しているし、おそらく全曲だと思われるのですが...。
曲名一覧から、8枚のシングルが出ていることが判ります。アルバムもSpecialtyから『Jump Jack Jump!』という名前で16曲(このCDの16曲目まで)収録のものが出ていたようですが、リリースされたのは1985年になってからです注3。それ以前にアルバムが出ていたかどうかは判りませんでした。
なお、英Aceからは『Hit That Jive, Jack!』というLPが同じく1985年に出ていますが、内容は『Jump Jack Jump!』と同じです注4

それではCDの内容についてですが、今度もやはり手抜きしてyoutube動画を3曲ばかり貼ります。

どうでしょうか?少し低い、ハスキーボイスは変わっていませんが、音の方はゴスペル時代とは打って変わって見事に大衆音楽。これぞジャンプブルースな、CDのタイトルにもなっている1曲目「Jump Jack Jump!」、スロー・バラードでしっとり聴かせる3曲目「Should I Ever Love Again」も良い感じです。
気のせいか、ゴスペル時代よりものびのびと歌っているような気がします。やはり彼女の本領は、大衆音楽にあったのでしょうか?

6.略歴その3
ジャンプブルースシンガーに転身したワイノナは、またソングライターとしての才能もあった。しかし、その才能が花開く前に、1957年、結核にかかり、復帰するまで2年を要した。
1959年に復帰後、録音を行うが、それがSpecialtyでの最後の録音となった。同年、フランク・シナトラのレーベル、Repriseへ移籍し、レコードを出すが、失敗に終わる。その後、故郷であるクリーブランドへ戻り、失意の内に1976年に亡くなった。享年51歳。R.I.P.

7,寂しい最期
ということで、Specialtyを離れたワイノナは1959年Repriseレーベルと契約し、アルバム『Wild Wonderful Wynona』(Reprise R-6032)注6を出すものの不発。
このアルバムは残念ながらCD化されていませんが、youtubeに何曲かアップロードされています。その中の1曲を貼って、この記事の最期にしたいと思います。

注1:『ドラグネット・フォー・ジーザス』(P-Vine PCD-3304)の日本語ライナーノーツ(佐々木健一氏著)を参考にしました。
注2:こちらのサイトを参考にしました。
注3:こちらのサイトを参考にしました。
注4:こちらのサイトを参考にしました。
注5:こちらのサイトを参考にしました。
注6:こちらのサイトを参考にしました。

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