音楽四方山話

2017.02.15

●音楽四方山話 第16回 そして3人が残った●

と言えば、もちろん英国プログレバンド、ジェネシスの1978年発表のアルバム『そして3人が残った』(原題『...And Then There Were Three...』)ですね。スティーブ・ハケット(Gt)の脱退により、フィル・コリンズ(Dr/Vo)、マイク・ラザフォード(Bs/Gt)、トニー・バンクス(Ky)の3人体制になってしまったことから名付けられたアルバム名ですが、今回はちょっとひねくれて、ジェネシスではなく、もう1つの「3人になってしまったバンド」、即ちジム・モリソン(Vo)の死により、レイ・マンザレク(Ky)、ロビー・クリューガー(Gt),ジョン・デンズモア(Dr)の3人体制になってしまった、ドアーズのその3人体制時代について書いてみたいと思います。



ジム・モリソンというあまりにも巨大なカリスマの死後、残された3人のメンバーはドアーズとしての活動を続けることを選択する。しかし、その活動は地味なものにならざるを得なかった(ジム・モリソンの死の直後、ドアーズは解散した、と思っている人も多いのではないだろうか?)。
彼らは、1971年に『Other Voices』、翌1972年に『Full Circle』の2枚のアルバムをリリースするが、米ビルボードチャートは、それぞれ31位、68位(米版Wikipediaに依る)と振るわなかった。結局この2枚を残して、3人体制のドアーズは活動を終了することになる。
それでは、さっそくその2枚のアルバムを聴いてみよう。まずは『Other Voices』から。

Other Voices(Elektra)

A1.In The Eye Of The Sun
A2.Variety Is The Spice Of Life
A3.Ships w/ Sails
A4.Tightrope Ride

B1.Down On The Farm
B2.I'm Horny. I'm Stoned
B3.Wandering Musician
B4.Hang On To Your Life

A1:ミドルテンポの、軽快な感じのする曲。ドアーズ特有の 、グルーヴ感が感じられる。ヴォーカルはレイ。長めの間奏はややだれるが、最後の方、ギター、ベース、オルガンが一体となって間奏を終結させる流れはかっこいい。ただ、アルバムの1曲めとしてはやはり地味。
A2:いきなりドラムの連打で始まり、オルガンが後を取って展開していく曲。1曲めよりはグルーブ感が強いし、派手だ。こっちを1曲めにしても良かったのでは?ヴォーカルはレイとロビーのツインヴォーカル。
A3:7分半ある長い曲。静かに始まり、次第に盛り上がっていく曲だが、いまひとつ盛り上がれずに終わってしまう。間にヴォーカル部を挟んだ、長いインストゥルメンタル部は、もう少し整理したほうが良かったのでは?、と思えなくもない。全編でコンガが入っていて、レイのオルガンと合わせて、どこかエキゾチックなムードがある。ヴォーカルはロビー主体でレイがバックを取るスタイル。
A4:かっこいいギターのリフから始まる良曲。ドアーズ特有の、うねるようなグルーヴ感あり。ヴォーカルはレイがメイン。
B1:レイのオルガンから始まる、スローバラード、と思わせて、途中からテンポが上がったり、またスローになったりと、複雑な構成の曲。最後の部分は、レイのオルガンが「ハートに火をつけて」あたりを思わせる音色で、ヴォーカルも渋く決まる。
B2:オルガンから始まり、ベース、ドラム、ギターの順で参加していって盛り上がる曲。サビ部分は結構かっこいい。ヴォーカルはレイ、ロビーのツインスタイル。
B3:6分を越える長めの曲。レイのオルガンによる、長いイントロから始まり、ヴォーカル部は少なめのインスト主体の曲。そう考えると、やや地味。ヴォーカルはレイがメイン。
B4:ドラムとコンガから始まり、その後もパーカッションがうまく使われている印象に残る曲。レイとロビーのツインヴォーカルも力強い。終わった、と思わせておいて、まるきり違う感じのインスト部に突入し、また唐突に(今度こそ)終わる。やや整理が必要か、と思わせる曲。

ということで、アルバム全8曲を聴いての印象は、今回この記事を書くために聴き直した訳だが、初めて聴いた時よりは好印象。なかなか良い曲もある。
ただ、アルバム全体を通してみると、どこかとっちらかった感があるのは否めない。とりあえず、持っている手札全部晒してみたけど、まだ何の役もできていない、あるいは仏作って魂入れず、みたいな感覚がつきまとう。
ここからは妄想だが、4人体制時代のままの音にするか、過去とは決別して、新しい音を追求するか、3人にも迷いがあったのではあるまいか。
やはりジムという中心というか核があってこそ、まとまっていたバンドなんだな、と改めてジム・モリソンの不在を痛感させられた。

続いて、『Full Circle』。

Full Circle(Elektra)

A1.Get Up And Dance
A2.4 Billion Souls
A3.Verdilac
A4.Hardwood Floor
A5.Good Rockin'

B1.The Mosquito
B2.The Piano Bird
B3.It Slipped My Mind
B4.The Peking King And The New York Queen

A1:オープニングにふさわしいキャッチーなノリの曲。どことなく、ソウルというか黒っぽい感じがする(女性バックコーラスが入ってる辺りか)。ヴォーカルはいつになく力強い感じのレイ。
A2:これは明らかにロビー中心の曲。ヴォーカルも、目立っているギター(アコギとエレキをうまく使い分け)も。対してレイのオルガンは本当にひっそりという感じで演奏されている。これもけっこうキャッチーで悪い曲ではない。
A3:即興音楽っぽいイントロで始まる曲。ロビーのワウワウギターや、サックスの音などはかなりサイケっぽい。一応ヴォーカル部分はあるもの、楽器の演奏が主体である。
A4:一転して、レイ中心の曲。ホンキートンク調のピアノとオルガンをうまく弾き分けている。女性バックコーラスやら、各種パーカッションも入って、ゴージャスな印象を与える。ハーモニカはロビーによるもの。
A5:4人体制時代のドアーズを彷彿とさせる曲。各楽器のバランスが良く、まとまりを感じる。ジムがヴォーカルを取っていたとしても、違和感はなかっただろう。
B1:ラテン風なヴォーカル(レイでもロビーでもないように聞こえるが誰が歌っているのか?)パート→パーティ会場っぽいSE主体のパート→再びラテン調ヴォーカルパート→即興演奏というか、ジャムっぽいインストパート。の複雑な構成の曲。このアルバムの中心的存在と言うべきか。
B2:ロビーのヴォーカル中心の曲。パーカッションやフルートも入っているが、今ひとつまとまりがなく、散漫な印象を与える。
B3:ヴォーカル、楽器共にレイとロビーががっつり組み合った、という感じの曲。そこにジムが入る余地はないだろう。
B4:再び、4人体制時代を思い起こさせる曲。ジムがヴォーカルを取っていたら、それなりに名曲になったかも知れないが、レイではやや力不足なのを否めない。

アルバム通しての感想は、曲単位ではけっこういい曲が多いが、全体を見るとまとまりがない印象を受ける。4人体制時代を思わせるA5、B4のような曲もあれば、A4やB3のように、明らかに新天地を切り開こうとしたと思える曲もある。
女性バックヴォーカル(クレジットにはクライディア・キングの名前も)やパーカッション、サックスやフルートの導入など、全般的には新しい方向へ舵を取ろうとしているように思える。が、成功しているとは言い難い。

結局2枚のアルバム通しての印象は、やはり「ジム・モリソンの不在」これに尽きる。いい曲もあるのだが、それはあくまで「あのジム・モリソンのいたドアーズの曲」というのを前提にしない上での評価だ。
残された3人にとって、「ドアーズ」の名前を使うのが、どういう意味を持つ行為なのかを、どれだけ意識していたのかは判らない。
しかし、4人体制時代でも、実際に曲を作る上では、自分たち3人もそれなりに貢献していたはず、という自負のようなものはあったと思われる(実際に、ドアーズの曲の大半は、レイとロビーによるもの、という説もある)。それだからこそ、敢えて解散や別名義での活動ではなく、「ドアーズ」の名前を引き継ぐことにしたのだろう。それが容易な道でないことは、おそらく残された3人が一番よく判っていたはずだ。

ちなみにこの2枚のアルバムであるが、私の所有しているのは、2in1で2枚のアルバムを1枚にした、Butterfly Productionsというレーベルから、1995年に出たものだが、これは正規盤ではないようである。
正規盤としては、2015年にRhinoからデジタル・リマスタリングされ、シングルB面曲を1曲追加した2枚組が出ているようなので、興味のある人はそちらを購入するべきだろう。


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さて、3人体制でのドアーズの活動は、この2枚で終わりを告げるのだが、もう1枚、どうしても取り上げざるをえないアルバムがある。それが1978年に、「Jim Morrison music by The Doors」というややこしい名義で発表された『An American Prayer』というアルバムだ。
これは、ジム・モリソンの死後、残された音源を調べた際に、詩の朗読という形で録音されたテープが見つかり、それに3人体制ドアーズが音楽を付ける、といういわば3.5人体制で作られたアルバムだ。


(クリックするとamazonに飛びます) An American Prayer(elektra)
Awake
 1.Awake
 2.Ghost Song
 3.Dawn's Highway
 4.Newborn Awakening
To Come Of Age
 5.To Come Of Age
 6.Black Polished Chrome
 7.Latino Chrome
 8.Angels And Sailors
 9.Stoned Immaculate
The Poet's Dreams
 10.The Movie
 11.Curses, Invocations
World On Fire
 12.American Night
 13.Roadhouse Blues
 14.The World On Fire
 15.Lament
 16.The Hitchhiker
An American Prayer
 17.An American Prayer
 18.Hour For Magic
 19.Freedom Exists
 20.A Feast Of Friends
Bonus Tracks
 21.Babylon Fading
 22.Bird Of Prey
 23.The Ghost Song
1:これは詩の朗読音源ではなく、ライヴ音源からのもの。ジムが客を煽る際によく使用した、「Wake Up!」という叫び声。
2:詩の朗読音源に3人の演奏をかぶせたもの。ジョンの呪術的な印象のするドラムを中心に、3人の演奏はよくまとまっており、ジムの朗読とも良く合っている。4人体制ドアーズのアルバムの中に入っていてもおかしくない出来栄え。
3:ジムのつぶやくような朗読メインの曲。演奏は付与されておらず、風の音やパトカーのサイレンの音などのSEが控えめにかぶせてある。
4:3人の息の合ったイントロに始まり、ジムの朗読が少しあった後、ジムが歌い出すが、この形で残されていたのか、どこかの音源から引っ張ってきたのかは不明。後半は演奏控えめに、朗読メインになる。これも「曲」として成り立っている。
5:これも朗読メインで、SEが控えめにかぶせてあるだけ。
6:3人の演奏はよくまとまっているが、朗読との相性はいまひとつ悪い。
7:3人+αの演奏にうまく朗読が乗っている。成功例。
8:ジムの朗読がひときわ印象的なトラック。中間と最終部に3人の演奏をバックにジムが歌っている部分があるが、これはライヴ音源かなにかから引っ張ってきたものと思われる。
9:これも3人の演奏+ジムの朗読が成功した曲。もともとの詩の朗読が、ややメロディがついたような、抑揚に富んだものなので、演奏との相性も良い。
10:SEに近いレイのシンセ音をバックに、ジムの朗読がひときわ印象的なトラック。ジムの声を左に振ったり、右に振ったりという小細工も成功している。
11:3人の演奏に事務の朗読が乗るパターン。演奏と朗読の相性も良く、これも成功したトラック。
12:ジムの朗読の間に、レイのピアノ不協和音が轟く。後半は観客の声が重なり、そのまま次のトラックへ。
13:これは詩の朗読ではなく、ライヴ音源を1曲まるごと収録。曲が終わった後の、ジムのMCや観客の歓声もかなり長く収録して次のトラックへ。
14:前のトラックからの、観客の歓声に銃の発砲音がかさなり、ジムの朗読、女性の話し声などが入り乱れて終わる。
15:ジムの朗読メインの曲。中間部ではロビーのギターが、終結部ではレイのオルガンが、後ろで奏でられる。
16:ジムの朗読で始まり、やがて背後で「ライダース・オン・ザ・ストーム」がそのまま流れたあと、フェイドアウト。
17:ジムの朗読と演奏との相性は良い。このアルバムの中でも1,2を争う出来映えだろう。さすがにアルバム・タイトルになるだけのことはある。
18:ジムの朗読と3人の演奏。3人は、「ジ・エンド」のイントロ部分を弾いている。
19:ジムの朗読だけの短いトラック。
20:ジムの朗読の背後で緩やかに演奏が始まり、クラシックの有名な曲(作曲家とタイトルが出て来ん)を演奏する。珍しく3人の演奏の方が印象的な曲。
21:水音、クジラの鳴き声などのSEを背景に、ジムの朗読。ジムが語った単語に対応したSEが流れるところが面白い。
22:ジムの朗読そのものが、メロディを伴って歌うように語られている。その朗読だけで十分と判断したのだろう、演奏は付け足されていない。
23:2曲めに「The」を付けた曲名だが、中身の方もほぼおなじ。ややこちらのほうが演奏がアグレッシヴか。曲の終わった後、1分くらいの無音部分に続いて、シークレットトラックが収録されている。ジムの朗読だけの短いもの。

こちらの方も、この記事を書くために久しぶりに聴いた。曲紹介で触れたように、ジムの詩の朗読に曲を付ける、という試みは、成功している曲もある反面、イマイチ冴えない曲もある。そういう面で、アルバム全体の評価はしにくい。
しかし、3人体制の2枚のアルバムでは、絶対的に足りなかったものが、こちらにはある。即ちジムの声である。それがあるだけで、曲が引き締まったような気がする。実際のところ、3人のプレイも、3人体制の2作品よりもこちらのほうが充実しているように聴こえるから不思議だ。
やはり、ドアーズというバンドは、ジム・モリソンという核があってこそのバンドだった、ということを再度認識させられたのだった。

                  了

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2016.02.11

◆音楽四方山話◆ 第14回 宇宙時代(スペース・エイジ)の音楽 Part 5

今回は月イチ更新から月2を目指しました。今回で無事終了。するかな?
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  1. Mr Spaceman/The Byrds
    「ミスター・スペースマン」は、1966年発表のシングルで、アルバム『5D(Fifth Dimention)』に収録されている。この時期のバーズは、サイケ・ロック全開なのだが、この曲に関してはあまりサイケではなく、素朴なフォーク・ロックという感じ。「宇宙時代の音楽」というテーマに沿えば、「霧の8マイル」や「5D」の方が(楽調的には)ふさわしいような気がする。

  2. Visa To The Stars/Jean Jacques Perrey & Gershon Kingsley
    電子音楽と言えばこの2人は外せない、ジャン=ジャック・ペリーとガーション・キングスレーのコンビによる曲。そんな人、知らないよ?という人も案外耳にしているだろう曲、あのディズニーランドのエレクトリカル・パレードのテーマ曲の元曲「Baroque Hoedown」を手がけたのが、ペリー&キングスレーである。
    この曲は、1966年に発表された、『The In Sound From Way Out』というアルバムの最後に収録されているが、このアルバムが、ほぼ全曲、宇宙をテーマにした曲で構成されている。収録曲をあげてみると、
    01.Unidentified Flying Object
    02.The Little Man From Erath
    03.Cosmic Ballad
    04.Swan's Splashdown
    05.Countdown At 6
    06.Barnyard In Orbit
    07.Spooks In Space
    08 Girl From Venus
    09 Electoronic Can-Can
    10.Jungle Blues Fron Jupiter
    11.Computer In Love
    12.Visa to The Stars
    てな感じ。
    この曲だけ、単曲でのYoutube動画が見つからなかった。アルバムまるごと分のがあったので、そちらを貼っておく(29分29秒ありますが)。

  3. Space Oddity/David Bowie
    「スペース・オディティ」は、先日惜しくも急逝したデヴィッド・ボウイの初のヒット曲だが、ひねくれ英Aceはここでも、有名なバージョンを収録せず、それ以前にDeramに録音したバージョンを収録している。これは1980年になって初めて発表されたもの。

    参考として、「有名な」ほうの「スペース・オディティ」の動画も貼っておく。

  4. Everybody gets To Go To The Moon/Telma Houston
    ソウル・シンガー、テルマ・ヒューストンのデビュー・アルバム、『Sunshower』からのシングル・カット。フィフス・ディメンション等を手掛けた、ジミー・ウェッブ作で、アポロ11号の月面初着陸成功を狙ってリリースされたようだが、残念ながら成功しなかった模様。

  5. Footprints On The Moon/Johnny Harris & His Orchestra
    ジョニー・ハリスは主にポピュラー・ミュージック方面のアレンジャーや、TV番組の劇伴音楽家として活躍した人物だが、これは彼の自己名義によるデビュー作。1stアルバム『Movements』にも収録されている。スペイシーな空間感覚がここちよい、インスト曲。この曲のタイトルはジョニーが地下鉄に乗っていたとき、たまたま隣に座っていた男性が読んでいた新聞の見出しからヒントを得たとのこと。

  6. Space Flight/I Roy with Lee Perry
    今まで、ポップ、ロック、ジャズ、ブルース、ソウルといろんなジャンルの音楽が取り上げられてきたが、ついにレゲエの登場。リー・”スクラッチ”・ペリー作の曲をアイ・ロイが歌ったものだ。

  7. Armstrong/John Stewart
    さて、アルバムの最後を締めるのは、ジョン・スチュワートの小ヒット曲。彼はもともとソングライターとして活躍し、その後シンガーソングライターに転身したが、1979年に「Gold」という曲がヒットしたくらいで、いわゆる「一発屋」扱いをされることが多いようである。
    最後の最後にこんな地味な曲を持ってくる辺りが、さすが(色んな意味で)英Aceだなあと感じてしまう。曲自体は、素朴な感じのするフォークソングで、これはこれでアルバムを締めくくるのにはふさわしいと言えるかもしれない。

ということで、Part 2〜Part 5まで、4回を通して、収録曲24曲について解説してみた。改めて振り返ってみると、ポップスあり、ロックあり、ジャズあり、ブルースあり、ソウルあり、レゲエあり、更には世界的ヒットになった曲あり、ほぼ無名に近い曲ありと、実に多種多彩、玉石混淆な1枚だと思う。しかし、そういったいわばジグソーパズルのピースの1つ1つのような曲をまとめて聴くことで、「宇宙時代(スペースエイジ)」というものを理解する一つの切り口になっているような気がしないでもない。

このCDには国内盤もあるようだ。邦題は「宇宙時代のヒッパレー」。…もうすこし凝って欲しかったような気がする。


                                    了

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2016.02.04

◆音楽四方山話◆ 第13回 宇宙時代(スペース・エイジ)の音楽 Part 4

お待たせしました。Part 4です。なんか、月イチの更新になっていますが、今後はもうちょっと更新ペースを上げたい。できるかな?
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  1. Spaceship To The Mars/Gene Vincent
    ジーン・ヴィンセントは、1950年代に活躍したロカビリー歌手。この曲が発表された1962年は、既に宇宙時代に突入し、月面着陸の具体的な計画が動き出していた時だった(実際に実現したのは7年後の1969年だが)。そんなところから、「月への宇宙船」ではインパクトが少ないということで、「火星への宇宙船」という歌になったのではないかと思われる。

  2. Doctor Who/BBC Radiophonic Workshop
    『ドクター・フー』は、英BBC制作によるSFドラマで、1963年に始まり、途中2回の中断を経て、現在でも放映されているという超長寿番組である。日本では無名に近いが、本国イギリスでは絶大な人気を得ている。
    テーマ曲は、各シーズン毎にアレンジを変えたりしているが、基本的にはロン・グレイナー作曲のものが使われ続けている。
    曲調は、いかにも未来的な、電子音を多用したものである。モーグ・シンセサイザーは当時できたかどうかという時期なので、使われているかどうかは判らないが、電子オルガンやテルミンなどを使っていると思われる。

  3. Twilight Zone/The Ventures
    説明するまでもないエレキ・インストバンドの雄、ヴェンチャーズによる、米国制作の人気SFドラマ、『ミステリー・ゾーン/Twilight Zone』のテーマ曲。かとおもいきや、『Twilight Zone』のテーマは、あの有名なイントロ部分を引用しているだけで、後は別の曲である。
    1964年に発表されたアルバム、『Ventures In Space』という宇宙をテーマにしたアルバムの収録曲。

    参考として、『Twilight Zone』の本物のテーマ曲も貼っておく。

  4. Everyone's Gone To The Moon/Bobby Womack
    1960年台後半〜1980年代にかけて、ソウル方面で活躍したシンガーソングライター、ギタリスト、ボビー・ウーマックが1969年に発表したアルバム、『My Prescription』に収録された曲。
    「みんな月に行っちまった」というサビが妙に物哀しい。

  5. Theme From Star Trek/Leonard Nimoy
    米国制作の、『宇宙大作戦/Star Trek』は日本でも大ヒットした有名なSFドラマだが、この『Greatest Hits From Outer Space』に収録されているのは、TV版のテーマ曲ではなく、出演者の一人、Mr.スポック役のレナード・ニモイによる、なんというか、イメージ・アルバムのようなアルバムに収録されたものだ。正式名は、『Leonard Nimoy Presents Mr.Spock's Music From Outer Space』というもので、中身はインストあり、ニモイの語り入り曲あり、更にニモイが歌っている!曲あり、とバラエティに富んでいる。
    ちなみに、『Greatest Hits From Outer Space』のブックレット裏面は、このレコードのジャケ写になっている(↓のyoutube動画参照)。

    参考として、TV版のテーマ曲も貼っておく。

長くなったので、Part 4はこの辺で。残り7曲はPart 5で。                     つづく

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2016.01.25

◆音楽四方山話◆ 第12回 宇宙時代(スペース・エイジ)の音楽 Part 3

さて、引き続きPart 3です。今回は何曲取り上げられるかなあ。
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  1. Maid Of The Moon/Dick Hyman & Mary Mayo
    ディック・ハイマンも、メアリー・メイヨも全く聞いたことがない人だったが、調べてみると、2人ともジャズ畑の人らしい。でも、今日ではジャズ方面ではほぼ忘れられ、この曲を収録した『Moon Gas』という1963年発表のアルバムで、モンド/ラウンジ・ミュージックの人として、評価されているようである。
    まだモーグもない時代なので、いわゆる電子音楽とはちょっと言いがたいが、テルミンやその他の効果音をうまく使って、宇宙っぽさを出している。メアリー嬢のヴォーカルは、スキャットのみ。

  2. Two Little Men In A Flying Saucer/Ella Fitzgerald with Sy Oliver & His Orchestra
    ジャズ・ヴォーカルの大御所、エラ・フィッツジェラルドの曲。
    この曲について、調べていて初めて知ったが、「Five (または Three) llittle Men In A Flying Saucer」という子供の遊び歌があるらしい。「10人のインディアン」と同じように、1回繰り返す度に、人数が一人ずつ減っていくというものだ。エラのこの曲は、おそらくこの遊び歌を元にして作られた、と思われる。Aメロのあたりが、遊び歌と歌詞もメロディーも似通っている。まあ、逆の場合も考えられないではないが…。
    ちなみにバックを努める、サイ・オリヴァーはトランペット奏者で、当時のジャズ畑で活躍した人。ペギー・リー等のバックも努めている。

    参考までに、「five Little Men In A Flying Saucer」の動画も貼っておく。

  3. Rockin' In The Orbit [Space Satellite]/Jimmy Haskell & His Orchestra
    ジミー・ハスケルは、1960年代から、編曲者として、また映画音楽の作曲家として、活躍した人。この曲は、1957年にImperialから発表されたもので、ロカビリー調のインスト曲。
    ちなみにこの曲の収録されている、『Count Dowm』というアルバムは、全曲宇宙関係で、収録曲リストをあげてみると、
      A1 Count-Down
      A2 Blast Off
      A3 Weightless Blues
      A4 Rockin' In The Orbit
      A5 Starlight
      A6 Hydrazine
      A7 Moon Mist
      B1 We Get Messages
      B2 Moonlight Cha Cha Cha
      B3 Astrosonic
      B4 Venus
      B5 Asteroid Hop
      B6 Homeward Earth
    てな具合である。ちなみに「Hydrazine」はロケットの燃料として使われる有毒の液体。

  4. Rocket Ship/Vernon Green & The Medallions
    ヴァーノン・グリーン&ザ・メダリオンは、1960年代に活躍したドゥーワップグループ。この曲は1959年にDootoneよりシングルとして発表された。

  5. Telstar/The Tornados
    トルネイドースは、1960年代初頭に英国で活躍したインスト・グループ。結成は、名プロデューサー、ジョー・ミークにより、セッションマンを寄り集めることで行われた。
    1962年、テルスター衛星の打ち上げにヒントを得たミークは、この曲「テルスター」を作曲。UK、US両方でトップチャートを記録する爆発的ヒットとなった。
    当時のインスト曲には珍しく、オルガンがメインのサウンドであり、またクラヴィオリンという特殊な音を出す楽器も使われ、非常にスペイシーな曲となっている。まさしく宇宙時代の大ヒット曲であり、スペース・ロックというジャンルを開拓した曲でもあった。

  6. Happy Blues For John Glenn/Lighrnin' Hopkins
    ジョン・グレンは、言うまでもなくアメリカ人初の宇宙飛行士で、1962年地球周回に成功した。この曲は、それを記念?して、テキサス・ブルースの大御所、ライトニン・ホプキンスが作曲・発表したもの。しかし、曲はいつもの通りのライトニン節、である。

長くなったので、Part 3はここまで。次回に乞う期待。
                               続く

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2016.01.11

◆音楽四方山話◆ 第11回 宇宙時代(スペース・エイジ)の音楽 Part 2

お待たせしました。年をまたがってしまいましたが、ようやくPart 2です。
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ということで、Part 2ではいよいよ、CD『Greatest Hits From Outer Space』の中身を見ていこう。
曲目一覧…を書くのはめんどくさいので、裏ジャケの写真を今度は大きなサイズで掲載する(クリックで拡大されます)。

spaceage_back.jpg

曲名とアーティスト名の後ろに、小さい字で発表年が記載されているが、それを見て貰えば、大体1950年代末〜1970年の間の10余年間に渡っていることが見て取れると思う(一部、はみ出す曲もあるが)。これは、Part 1の最後で結論を出した「1950年代末〜1960年代末」という宇宙時代の定義と大体一致する。
曲の内容は、それこそ様々で、クラシックあり、ジャズあり、ブルースあり、ロックありと多様だが、まあ、これはとりあえず宇宙に関した曲は適当にぶちこんでしまえ、という大まかな編集方針によるものだと思う。しかし、この混沌とした内容が、宇宙時代(スペース・エイジ)に妙に合っているのも確かだ(と偉そうに書いているが、筆者は1962年生まれなので、ものごごろついた頃には、既に宇宙時代の末期だったわけだが)。

それでは、次に個別の曲について見て、いや、聴いていこう。折角Youtubeという便利なものがあるので、Youtube上に曲があるものは、埋め込んでおいた。

  1. Also Sprach Zarathustra, Op.30/Berliner Philharmonicar, Conductor: Karl Böhm
    1曲目は、リヒャルト・シュトラウス作、「ツァラトウストラはかく語りき」の冒頭部分。映画『2001年宇宙の旅/2001: A Space Odyssey』のテーマ曲として、あまりにも有名だ。冒頭に持ってくるにはこれ以外ないと言う選曲だろう。
    ところで、このCDに収録されているのは、サウンドトラック盤に収録された、カール・ベーム指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団演奏のものであるが、実際に映画で使われたものなのだろうか?映画で使われたバージョンと、サントラに収録されたバージョンが違うというのは、よくある話である。
    で、調べてみると、やはり映画とサントラでは違うものが用いられている事が判った。その辺の経緯は、jurassic_oyaji氏による、R・シュトラウスと「2001年宇宙の旅」というページに詳しく掲載されている。そこに依れば、映画で実際に使用されているのは、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団演奏のものであるらしい。権利関係か何かで、カラヤン版を使用できなかったため、ベーム版を使用した、と推測されているが、おそらくそうであろう。

  2. Destination Moon/The Ames Brothers
    2曲目は、1940年代〜1950年代にかけてアメリカで活躍したヴォーカルグループ、エイムス・ブラザーズの1958年の曲。ナット・キング・コールやダイナ・ワシントンもヒットさせている。おそらく、1950年発表のアメリカ映画『月世界征服/Destination Moon』の影響を受けて作られた曲ではないかと思われる。
    ちなみに、こちらのサイトで日本語訳歌詞が見られる。

  3. Lunar Rhapsody/Les Baxter Orchestra with Samuel J Holfman (Theramin)
    3曲目は、マーティン・デニーと並ぶ、エキゾチック・サウンドの雄、レス・バクスターの曲。1947年に発表された1stアルバム、『Music Out Of The Moon』に収録されている。アルバム名からして、既に「月」であるが、この曲以外にも、「Moon Moods」、「Mist O' The Moon」、「Radar Blues」などという曲もある。サミュエル・J・ホフマンによるテルミンをフューチャーした、宇宙感覚溢れる曲だ。

  4. Rocket To The Moon/Moon Mullican
    4曲目は、ムーン・マリカンの曲。名前に既に「月」が入っている。マリカンは、ブルース、カントリー、ロカビリー等幅広い分野で活躍したピアニストで、そういうジャンルをまたがって活躍した人の常として、今ひとつ知名度が低い。
    この曲は、1953年にKingレーベルよりシングルとして発表された。

  5. Forbidden Planet/David Rose & His Orchestra
    1956年、アメリカMGM制作のSF映画、『禁断の惑星/Forbidden Planet』のテーマ曲。
    と、単純に思っていたのだが、【コラム】 映画と音楽 第8回「禁断の惑星」というページに依ると、映画で実際に使用された音楽は、ルイスとビーブのバロン夫妻によって作曲・演奏されたものだが、いわゆる「電子音楽」であったため、曲として認められず、クレジットされなかったと言うことらしい。
    更に事態をややこしくしているのは、同年、デヴィッド・ローズ・アンド・ヒズ・オーケストラ名義で、「Forbidden Planet」というシングルが発売されたことで、このシングルは、当初『禁断の惑星』のテーマ曲として使用されるべく作曲されたが、結局はバロン夫妻の音楽が採用された結果、お蔵入りとなったものだというのだ。
    Youtubeを「Forbidden Planet」で検索すると、バロン夫妻版と、デヴィッド・ローズ版が混在している。両方を聴いて確認してみたが、この『Greatest Hits From Outer Space』に収録されているのは、クレジット通り、実際の映画では使用されなかった、David Rose & His Orchestraのものだ。
    参考までに、両方のYoutubeを貼っておく。

    デヴィッド・ローズ版

    バロン夫妻版

  6. Flying Saucers Rock'n Roll/Billy Riley & His Little Green Men
    ビリー・(リー)・ライリーは、初期ロカビリーの伝説的スター。バックバンドの、リトル・グリーンメンと言うのも、なんとなく異星人を連想させる名前である。
    この曲は、1957年にSUNレーベルよりシングルとしてリリースされた(ピアノを弾いているのは、ジェリー・リー・ルイス)が、この『Greatest Hits From Outer Space』に収録されているのは、初期テイクで、ジェリー・リー・ルイスは参加していないバージョンらしい(ブックレットの解説による)。
    参考までに、両方のYoutubeを貼っておく。

    初期テイク版

    リリース版

ということで、最初の6曲について解説したが、だいぶん長くなったので、以降は次回ということにさせていただく。このペースだと、Part 5くらいまで行きそうだなあ。
                                               つづく

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2016.01.02

◆音楽四方山話◆ 第10回 ブックオフオンラインが意外と使える件

ということで、年も変わりましたが、相変わらず「宇宙時代(スペース・エイジ)の音楽 Part 2」はまだです(^^;。
かわりにちょっとお得かもしれない情報をお届けします。
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中古CD好きな人なら、ブックオフに関して無関心ではいられないと思う。かくいう弊社も、最近CD購入量の内、ブックオフが占める割合は結構大きかったりする。
そんなブックオフについて、どんな感覚を抱いているのかというと…。

  1. 買取金額が雀の涙ほど。値段が付かないことも多い。

  2. そのくせ販売価格は無茶高い。特に箱物。

  3. 定価の判らない輸入盤の場合、時たま、値付けを間違えたかと思うほど、激安価格で売っていることがある(ほんとに時たまですが)。

  4. 500円均一棚が結構狙い目。

こんなところだろうか。3番目が無ければ、ブックオフなんてわざわざ出かける価値もないのだが、これが時たまあるから始末が悪い。
先日も、ブックオフ某店で、某有名テノール歌手のボックスセット12枚組(新品同様)がなんと500円!で売っていて、たまげたことがある。どうしたかって?もちろん買いましたとも。別に某有名テノール歌手に思い入れがあったわけでは全然ないんだが…。

さて前置きはこのくらいで、いよいよ本題に入る。ブックオフには、実店舗以外に、通販サイトであるブックオフオンラインというのがある。このブックオフオンライン、全然宣伝していないこともあって、あまり知名度は高くないと思うのだが、結構狙い目なのだ。どんな感じの通販サイトかと言うと…。

  1. 基本中古盤だが、一部新品も売っている。

  2. 基本国内盤だが、一部輸入盤も売っている。

  3. 商品については、アーティスト名とタイトル以外、ほぼ判らない。画像もない場合が多い。

  4. 価格は、実店舗に比べて安め。

  5. 実店舗に比べると、値段の付け方が細かい。698円とか、298円とかいう半端な値段が付いている。

  6. 高いものは高いが、安いものは極端に安い。ただ、安いものは在庫無しが殆ど。

  7. 「中古検索」というボタンがあるので、それを押せば中古在庫のあるものだけが表示されて便利。

とまあ、こんな感じだ。
最近は、声優/アニメ系のCDを買うことが結構多いのだが、それらは、新作を除き、結構安めで売っていることが多い(大体300〜800円くらい)。これには結構お世話になった。
大体は、ポピュラーなものだが、たまにマニアックなものも安く売っていたりする。

↑こんなのも298円で買えちゃう!
ということで、最近はCD買う時に、amazonやHMVに加えて、ブックオフオンラインもチェックするようにしている。貴方もどうですか?探していたCDが安値で見つかるかもよ?

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2015.10.31

◆音楽四方山話◆ 第8回 宇宙時代(スペース・エイジ)の音楽 Part 1

またまた1ヶ月間が空いてしまいました。さて今回は、宇宙時代(スペース・エイジ)の音楽、という大層なタイトルですが、中身の方はヘボヘボです。さてどうなりますことやら…。
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「宇宙時代(スペース・エイジ)の音楽」というタイトルだが、そんな大げさな話ではない。中古盤屋でたまたま入手したCD、英ACEレーベル(アメリカにもACEというレーベルがあったので、区別のため頭に「英」をつけるのが一般的)の『Greatest Hits From Outer Space』というオムニバス盤がちょっと面白かったので、それについて書こうと思っただけなのだ。

Space_cd_img01_3Space_cd_img02_3

しかし、考えているうちにだんだん構想が膨らんできて、変に音ネタから外れそうになったので、適当なところで書くことにした。
それにしても、「宇宙時代」とは具体的にどの時代を指すのか?くらいは定義しておきたいところであるが、それをやりだすと、それだけで1記事できてしまいそうなので、独断と偏見で、「宇宙というものが絵空事でなく、現実のものになった時代」としておく。
  1. ”プレ”宇宙時代
    「宇宙」というものに対する、天文学者などではない一般庶民の認識はかなり前からあった。例えば、1920年代のアメリカでは、パルプ・マガジンと呼ばれる三流雑誌が粗製濫造されており、その中には、SF小説も多く掲載されていた。いわゆる「スペース・オペラ黄金期である。そこには、宇宙を疾駆する銀色のロケットシップ、なぜかビキニ同様の露出度の高い宇宙服を着たヒロイン、それに襲いかかるベム(Bug Eyed Monsterの略)、などのイラストが掲載され、ビジュアル面で、「宇宙」というものの認識を庶民に流布していたのである。とは言っても、それはあくまで小説という、「絵空事」に過ぎなかった。

  2. 「宇宙」からの恐怖
    1938年、それまで「絵空事」だった「宇宙」が、現実の恐怖(をもたらすもの)となる出来事が起こる。H.G.ウェルズ原作の『宇宙戦争』がオーソン・ウェルズの制作によって放送されたのだが、そこでは普通のラジオドラマではなく、あたかも本当の臨時ニュースが番組中に流れるような形を取った。それを聴いた聴衆の一部が、本当に火星人が襲来してきたものと思い込み、パニックに陥ったのだ。このあたりの経緯はこのサイトの記事に詳しく載っている。

  3. スプートニク・ショック!
    1957年、世界に、特にアメリカに衝撃が走った。ソ連が人類初の人工衛星、スプートニクの打ち上げに成功したのだ。それまでアメリカの技術力は世界一、と認識してきたアメリカにとって、これは恐るべき事実であった。人類が、自ら作ったものを宇宙に放ったのである。これをもって、宇宙時代の嚆矢としても妥当だと思われる。

  4. 宇宙時代の到来
    スプートニクの打ち上げ以降も、宇宙時代に関連する出来事が起こるが、いちいち1項目にするのも面倒臭いので、箇条書きにして羅列してみる。
    • 1959年公開の東宝特撮映画『宇宙大戦争』には、登場人物による、「今や、我々人類は、はっきりと、宇宙時代に突入したことを、認めざるを得ません」という台詞がある(ちなみに劇中の設定年は1965年)。

    • 1961年、ソ連が、世界初の有人宇宙飛行を成功させる。宇宙飛行士、ユーリ・ガガーリンの「地球は青かった」という言葉はあまりにも有名(実際には、微妙に意味の違う言葉だったらしいが)。

    • 1962年、ソ連に遅れること1年、アメリカも有人宇宙飛行を成功させる。宇宙飛行士はジョン・グレン。

    • アメリカで1966年に放映が開始されたTVドラマ(日本での放映は1969年)『宇宙大作戦/Star Trek』のオープニングナレーションは、「宇宙、それは人類に残された最後の開拓地である。」という言葉で始まる(日本語版では若山弦蔵氏が担当)。

    • 1968年、スタンリー・キューブリック監督による映画、『2001年宇宙の旅』が公開される。

    • 1969年、アメリカが世界初の月面着陸を成功。初めて月面に降り立ったニール・アームストロング船長による、「これは一人の人間には小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」という言葉はあまりにも有名。

    という感じで、羅列してきたが、これを見る限り、1950年代末から1960年代末あたりが、宇宙時代と言っても良いように思える。

思ったより、長くなってしまった。肝心の音楽の話に入れなかったが、それはまた次回ということで。
                                                  つづく

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2015.10.09

◆音楽四方山話◆ 第7回 今は亡きレコード店の思ひ出 その2 ビッグピンクなんば店

ということで、1ヶ月以上間が空いてしまいましたが、なんとか更新再開します。今回は「今は亡きレコード店の思ひ出」その2です。
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南海電鉄なんば駅の高架下を、少し南に下ったところに、ビッグピンクなんば店はあった。確か、隣が美容室で、店に入るには美容室を通り抜けていかなければならない、という変な構造になっていたと思う。
この店を覚えている人は、店自体を覚えているというより、店長を覚えているという人が多いのではないか?名物店長…と言えば聞こえがいいが、どちらかというとネガティヴな方で有名だった。
当時、店内はまだCDよりもアナログ盤が多かった。そのアナログ盤は、いわゆるエサ箱と言われる段ボール箱に入れられているのだが、盤を漁る時に、一番効率のいいのは、アナログ盤を持ち上げて、ジャケットを確認し、要らなければストンと下に落とすというものだったが、コレをやると、アナログ盤の底の部分が痛むと言って、店長に怒られるのである。それはもう執拗なぐらい、ストンという音に反応して文句を言いに来る。
私は、当時(今もだが)アナログ盤の再生環境を持っていなかったので、アナログ盤を漁ることもなく、文句を言われたこともないが、当時は、音楽好きの友達が集まると、決まってビッグピンクなんば店の店長の話題が出たものだ。
もう一つ、嫌なところは、これは私も散々嫌な目にあったが、バイトの子にぶつぶつ執拗に怒るというか、説教たれるのである。
それを聞かされる未関係の客の方は、堪ったものではない。そういうことは、客の目の届かないところでやれよ、と何度思ったことか。
まあ、ネガティヴな話はその辺にして、中古盤屋として見た時には、割合値段も安かったし、特にプログレ関係の盤が多くて重宝した。でも、買ったもので覚えているのは、当時集め始めたツェッペリンのブ○トである。ブ○トでも、価値のあるものは、別箱に入れられて、それは手の届かない値段だったが、通常の棚に置いてあるものは、結構安価だった。
ここで、確か正体も判らずに、『Badge Holders Only』というブ○トを(有名な音源であるが当時はまだ知らなかった)、散々迷った挙句買った覚えがある。
ちなみにこのビッグピンクは一応?チェーン店らしく、梅田店、阿倍野店があった。梅田店は、会社帰りによく寄っていて、好きだったのだが、いつの間にかアダルト系のビデオが商品の大半を占めるようになり、行かなくなった。そして知らないうちに閉店していた。
阿倍野店は、だいぶん後になってから、数回行ったと思う。あまり印象に残っていない。
そして肝心のなんば店であるが、南海高架下から、なんばCITY北館の一番南の端に一度移転した。それと同時に、今まで持っていたオーラのようなもの(良きにしろ悪しきにしろ)がなくなって、普通の中古盤屋になってしまったような印象がある。結局、2005年か2006年頃に閉店してしまったようだ。

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2015.08.30

◆音楽四方山話◆ 第6回 奇盤迷盤珍盤 その1 恐るべし!編曲魔の脅威

ということで、今回はまた新シリーズです(実はこれが音楽四方山話を始める前に企画していたもの)。
今回は、クラシック界の話しですが、全然堅苦しくない、ていうかアバウトな話です(筆者の性格上そうなる)。取り上げるのは、日本人ならお馴染みのベートーヴェンの交響曲第9番”合唱付き”。しかし、「編曲魔」とはいったいどういうことでしょうか?その答えは以下をどうぞ。
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  1. ベートーヴェンとリスト
    今回取り上げるのは、ベートーヴェン(1770年12月16日頃 - 1827年3月26日)の交響曲ですが、実際の主役はフランツ・リスト(1811年10月22日 - 1886年7月31日)です。
    生没年を見れば判るように、二人は、同じ時代に生きていました。祖父と孫、くらいの関係でしょうか。実際に、リストは11歳の時、師に連れられて、晩年のベートーヴェンに会い、その前でピアノを弾いてみたそうです(当時のベートーヴェンは既に聴力を失っていたと言われているので、その演奏を聴けたかどうか疑問ですが)。
    そんな関係ですから、リストはベートーヴェンを尊敬し、その楽曲に強い影響を受けていると言われます。そしてその尊敬がついにリストをある行動に駆り立てたようです。その行動とは?
  2. 「編曲魔」とは?
    クラシック界で、「録音魔」と言えば、パパ・ヤルヴィことネーメ・ヤルヴィのことですが、それは録音した音源が莫大な量になるからです。では「編曲魔」とは何か?文字通り、いろんな作曲家のいろんな曲を、編曲しまくることです。
    リストは、その編曲魔でした。彼の作品には、サール番号と言われる通し番号が付いていますが、ウィキペディアのフランツ・リストの楽曲一覧 (S.1 - S.350)およびフランツ・リストの楽曲一覧 (S.351 - S.999)を見ると、後半のS.351以降は、全て自作曲および他人の曲の編曲です。
    そんな彼の編曲レパートリーは、上記ウィキペディアの一覧表を見れば判るように、実に幅広いのですが、その中にはベートーヴェンも含まれています。しかも交響曲第1番〜第9番まで全て!更に驚くべきことに、それらはピアノ独奏用の編曲なのです。オーケストラの曲をピアノ1台で表現する?そんなことが可能なのでしょうか?しかも、今回取り上げる第9番にはそのサブタイトル通り、合唱まで付いています。難易度高そうです。
  3. 実際に聴いてみよう
    果たしてどんなものなのか、実際に聴いてみたいと思います。この独奏ピアノ版は、シプリアン・カツァリスによって、全曲録音されています。今、手元には、第1番〜第9番までの全集がありますが、その中から第9番”合唱付き”を聴いてみましょう。
    一応、通常のオーケストラ版との聴き比べ的なこともしてみたいと思います。オーケストラ版に使ったのは、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮、シュターツカペレ・ドレスデン演奏のものです。
    1. 第1楽章
      まずはオーケストラ版の方を聴いてみましょう。静かなイントロから、雄大な第1主題が奏でられます。ティンパニとかも入ってかなり分厚い音ですが、これを再現できるのでしょうか?
      第1主題についで、穏やかな第2主題に入ります。その後は、いくつかの主題を複雑に絡み合わせ、山あり、谷ありの展開を見せますが、前半が終わった辺りに、大きな山があります。ティンパニ連打とかもあるクライマックスです。ここがどう再現できるのかが聴きものですね。
      その後はまた山あり谷ありの展開を見せ、最後は再び第1主題が奏でられて、終わります。
      それではピアノ独奏版です。う〜む、オーケストラ版を聴いた直後に聴いてしまうと、かなり音数が少ないです。だいぶん端折ってある感じですね。まあ、そもそもピアノ1台、2本の手で、オーケストラを完全に再現出来るはずもないので、この辺は仕方のないところでしょうか。
      それでも、重要なメロディーだけを残し、あまり必要性のない音はバッサリカットするあたりのやり方は見事なものです。心配していたティンパニの音も、低音部の不協和音でそれらしく表現されています。
      前半終了前後のクライマックスは、さすがにちょっと迫力不足という感じですね。
      全体的に、右手高音部、右手中音部、左手中音部、左手低音部、という4つくらいのパートに分けて、各楽器を割り振っているような感じですが、当然全楽器の音が演奏される訳ではなく、また、パートへの割り振りも、その場に応じてかなり柔軟にされているようです。
    2. 第2楽章
      それでは第2楽章、まずはオーケストラ版です。第1楽章同様、いくつかの主題が絡みあいながら進行していきますが、この楽章ではとりわけティンパニの存在が重要です。他の楽器が鳴っていない、または殆ど鳴っていない箇所で、ティンパニの音だけが鳴り響くというパターンが多く、ティンパニソロ、と言っても良いくらいです。ピアノ独奏版、第1楽章では、低音部の不協和音でティンパニの音がそれらしく表現されていましたが、この第2楽章ではどうなるか聴きものです。
      それではピアノ独奏版を聴いてみます。懸念事項だった、ティンパニソロですが、低音部を不協和音で思い切り強打して、それっぽさを出してはいるものの、オーケストラ版の、いきなり鳴り響くティンパニの破壊力に比べると、かなり迫力不足です。
      更に、ピアノ独奏版の不利になる事柄が明らかになりました。ピアノと言う楽器は、その構造上、同じ音を連続して長く発することが出来ません。この第2楽章の主題の一つは、管楽器群がメロディーを奏で、弦楽器がそれの伴奏的に同じ音を長く出す、ということで美しい構造になっていますが、ピアノ独奏版では、管楽器のメロディーは再現出来ているものの、弦楽器の伴奏音は、さすがに同じキーを連打すれば良い、という訳にもいかず、かなり苦労しているような感じがします。
    3. 第3楽章
      さてオーケストラ版の第3楽章です。第1、第2楽章がかなり起伏に富んだ、山と谷という感じなら、この第3楽章は丘と小川という感じでしょうか。弦楽器と管楽器が絡みあいながら、ゆるやかに上昇し、またゆるやかに下降する、そんな感じで進んでいきます。これなら、ピアノ独奏でも結構それらしい感じに再現できるのではないでしょうか?
      それではピアノ独奏版です。うん、これは良いですね。今までの中では一番上手くいっている感じです。主旋律は、右手でほぼオーケストラ版通りに再現し、伴奏というか通奏低音的な部分は、左手でかなりアレンジしてありますが、上手く処理されています。
    4. 第4楽章
      さあ、いよいよ難関の第4楽章です。この第4楽章はかなり複雑な構成を持っています。初めて聴いた時は、なんだかとっちらかった印象を受けました、何度も聴いた今では、だいぶん慣れましたが、それでも文章で紹介するというのはなかなか難しいです。
      オーケストラ版ですが、まず雷鳴のような一撃に続いて、低音弦楽器による第1主題が奏でられます。その後もちらと例の「歓喜の歌」の有名なメロディーを交えつつ、複数の主題が奏でられ、いよいよ声楽パートが始まるのは、開始から5分以上経ってからです。
      最初は、男声ソリストによる独唱で始まり、それを受ける形で合唱パートへ入るというパターンが多いです。「歓喜の歌」の大合唱は、前半が終わった頃にようやく出てきます。そのまま盛り上がって終了かというと、さに非ず。それはすぐに終わってしまって、また別の主題が始まり、それが二度ほど繰り返された後、ようやくエンディングを迎えます。
      さて、それではピアノ独奏版です。導入部は、なかなかうまく再現されています。雷鳴のような一撃は、例によって不協和音を含む低音部の強打で再現。間に挟まる美しい旋律との対比がなかなか見事です。
      ということで、オーケストラ部分はなかなか上手くいっているのですが、声楽パートに差し掛かると、さすがにかなり苦戦しています。声パートに手一本取られてしまうため、オケパートは残る手一本で高音部から低音部まで奏でなければなりません。かなり忙しそうです。やはり合唱部分まで、ピアノ1台で再現するというのは無理があると言えるでしょう。
    5. 総評
      ということで、通して聴いてみました。オーケストラ版との聴き比べという形を取ったため、どうしても評価がネガティヴになった嫌いはあります。
      オーケストラ版をあまり意識せず、最初からピアノ独奏曲だと思って聴けば、かなりいい演奏だと思います。第9を聴きたいけど、オーケストラ版を聴くのはちょっと重いなあ、というような時に、代替手段として聴くのもよろしいかと。

    と言う感じの印象を持った訳ですが、文字じゃあはっきり判らないよ、という人は、幸いyoutubeに動画(静止画のみ)が上がっているので、それを聴いてみてください(1時間5分あります)。

  4. 2台ピアノ版もあった!
    上記のyoutube動画は、”beethoven liszt symphony 9”というキーで検索して見つけたものですが、その3つ4つ下に、「Beethoven/Liszt: Symphony No.9 for 2 Pianos」というのもありました。え、2台ピアノ版もあったの?と思って、上記のwikipediaのリスト編曲集を見てみると、確かに「2台のピアノのための編曲作品」の中にベートーヴェンの交響曲第9番があります。ただし、独奏版のほうは、第1番〜第9番まであるのに、2台ピアノ版のほうは第9番だけです。さらに、編曲年月を見ると、2台ピアノ版のほうが1851年、独奏版のほうが、1863〜1864年と、2台ピアノ版のほうが早いのです。
    おそらく、リストは、最初のうち、1台のピアノ用に編曲するのは難しいと考えて、2台ピアノ版を書いたのではないでしょうか?それで自信を付けて、第1番〜第9番までの独奏版を書いたのではないか?と推測します。
    その2台ピアノ番も、youtubeで聴いてみましたが、第1楽章〜第3楽章までは、手の数が倍になっている訳ですが、あまり音数も倍、とは感じませんでした。手三本くらいな印象です。よく聴いてみると、2つの手でわざと同じかごく近いキーの音を出して、音に深みを持たせる、というような技巧も使用しているようです。
    しかし、第4楽章になって、声楽パートが入ると、さすがに4本の手全てを使っているな、というのが判りました。声パートも、場合に応じて、男声パートと女声パートを2本の手で弾き分けたりしています。
    とりあえず、両方の版を聴き比べて思ったのは、まあ、演奏者の差、ということもあるかも知れないですが、第1楽章〜第3楽章までは、独奏版のほうがスッキリしてていいな、第4楽章はさすがにピアノ1台ではしんどいので、2台ピアノ版のほうがいいな、という感想でした。それなら私も独奏版と2台ピアノ版聴き比べてみたいという人のために、2台ピアノ版のyoutubeも貼っておきます。









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2015.08.14

◆音楽四方山話◆第5回 旧館サルベージ企画 その2 この世の煩わしさをなくすもの

第5回では、旧館サルベージ企画第2弾として、「この世の煩わしさをなくすもの」という、ちょっと気恥ずかしいタイトルの回を再録します。前回同様、今読むとちょっとどうか、というような箇所もありますが、若書き、ということでそのまま収録しました。基本的に見栄えを良くしたくらいです。それではどうぞ。
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2001.02.04 UP
この世の煩わしさを無くすもの

「この世の煩わしさ」を無くすもの、それは音楽。と書くと、ちょっと唐突と言うか強引な出だしであるが、今回は、「この世の煩わしさ」という意味を持つちょっとひねくれた名前のグループ、THIS MORTAL COILについてである。

THIS MORTAL COILは、英国の4ADというインディーズレーベルを主宰する、アイヴォ・ワッツ・ラッセルという人物が中心になって作り上げたユニットである。4ADというレーベルは、インディーズレーベルの中でも、とりわけレーベルカラーというか特色がはっきりしているレーベルなのだが、その特色は、なかなか言葉にするのは難しい。一言で言えば「耽美」ということになるだろうか。その感覚を実感してもらうには、むしろ、店頭で4ADレーベルの作品のジャケットを眺めてもらう方が早いかも知れない。コクトー・ツインズ、デッド・カン・ダンスと言った、4ADの代表的なアーティストの作品はいずれも美しいジャケットに包まれている(23ENVELOPEという集団によるもの)。
それもただ単に美しいだけでなく、癖のあるというか毒のあるというかそういう美しさだ。4ADの音楽も、そのジャケットのような味わいだと思ってもらえればよい。
もちろん、いろんなアーティストがいるから、その音楽性はひとくくりでは語れないのだが、それでも一聴して、「これは4AD」と判るような特色がどこかにあるのは、やはりオーナーであるアイヴォ・ワッツ・ラッセルがレーベル全体をコントロールしているからだろう。

THIS MORTAL COILはそんなアイヴォの大好きな曲、MODERN ENGLISHの「SIXTEEN DAYS」と「GATHERING DUST」という曲を録音してみたいという想いから始まったという。
その計画は乗り気でないメンバーを無理矢理説得するような形で(笑)実施され、更にレコードとして発売するのであればB面曲も必要ということで、コクトー・ツインズのエリザベス・フレイザー他のメンバーによりティム・バックレーの「SONG TO THE SIREN」が追加録音された。12インチシングルとして発売されたレコードは大ヒットし、結局引き続きアルバム(『IT'LL END OF TEARS』邦題『涙の終結』)が作られる事になる。
先の12インチシングルのB面曲である「SONG TO THE SIREN」他、6曲のカバー曲と、それをつなぐ美しいインスト曲からなるというスタイルで、このスタイルはその後の2nd(『FRIGREE AND SHADOWS』邦題『銀細工とシャドー』)、3rd(『BLOOD』邦題『ブラッド』そのまま(笑))にも引き継がれる。
残念ながらこの3rdが彼らの最後のアルバムとなってしまった。

私が、THIS MORTAL COILと出会ったのは、たしか2ndが出て間もない頃である。EST-1にあるワルツ堂(註 今はもうない)に2ndアルバムの輸入盤が置いてあったのだ。当時は、THIS MORTAL COILはもちろん、4ADについても殆ど知らなかったが、表面に女性の顔右半分、裏面に瞼を閉じた女性の眼のモノクロ写真をあしらった、美しいけれども怖いジャケットには非常に惹かれるものがあった。ワルツ堂へ行く度に、そのCDを手にしてしばらく眺めるのが恒例行事のようになっていたが、何しろどんな音なのか、さっぱり判らなかったので購入するには至らなかった。
結局、購入したのはそれからしばらくして国内盤が出てからだった。その頃には(どこから情報を得たのか憶えていないが)大体どんな音かという情報も掴んでいたので国内盤が出るとすぐ購入したと思う。ポスター仕様になっている美しいブックレットをしばらく堪能した後、音の方を聴いてみた。
弦楽器による美しいインスト曲がまず流れ、続いて鳥の声とコーラン?の詠唱のSEに続いて男性歌手による深みのあるヴォーカル曲「THE JEWELLER」が聞こえてくる。その時点で、もうこのアルバムを気に入っていたように思う。単に気に入ったというだけでなく、非常に印象的というか、衝撃的だった。4ADの作品はこれが初体験だったせいもあるだろうし、私にとってはあまりそれまでに聴いたことのないタイプの音楽だったせいもあると思うが、それから10年以上経った今改めてこのアルバムを聴いても全く古びていないばかりか、新鮮に聴こえるのには驚かされる。
その後、遡って1stを購入し、さらにコクトー・ツインズやデッド・カン・ダンスといった4ADレーベルの世界にはまることになるのだが、そのきっかけはやはりこのTHIS MORTAL COILの2ndである。

THIS MORTAL COILの音楽を大きく特色づけているのが、そこで取り上げられた多数のカバー曲だ。
もともと過去の名曲をカバーしたいという動機から始まっただけあって、どのアルバムでも多彩なアーティストの曲が取り上げられているが、とりわけ世間一般では評価が低い、という以前にあまり知られていないシンガーソングライターの人々に対する比重が高い。具体的には、ティム・バックレー、アレックス・チルトン、ロイ・ハーパー、ジーン・クラークと言った人々である。
最近でこそ、こういったアーティストもそこそこ知名度があがり、大手のレコード屋へ行けばCDも沢山並んでいるようになったが、THIS MORTAL COILが活動していた80年代後半にはまだまだマイナー以前の存在でしかなかった。THIS MORTAL COILの活動とヒットは、多くの人にとってこういったアーティストに対する再評価(あんまり好きでない言葉であるが)のきっかけにもなったようだ。
私個人も例外ではなく、先に上げた人たちは皆、THIS MORTAL COILを通して教えてもらい、好きになった人たちである。カバーを先に知ってそれからオリジナルに遡るというのは少し邪道のような気がしないでもないが(笑)、まあ、それも楽しみ方の一つではある。後半ではその人たちについて書くことにしよう。

◆ティム・バックレー◆
最近では、「ジェフ・バックレーのお父さん」と言った方が通りがいいのかも知れない。息子さん同様、若くして亡くなったシンガーソングライターである。THIS MORTAL COILの作品として最初に世に出た12インチシングルに納められていた「SONG TO THE SIREN」はこの人の曲であり、それ以外に、2ndでは「I MUST HAVE BEEN BLIND」、「MORNING GROLY」の2曲が取り上げられている。
基本的には、フォーク系の人であるが、作によってはサイケ/アシッドフォークな音だったり、ジャズっぽい路線だったりしている。「SONG TO THE SIREN」は6th『STARSAILOR』に、「I MUST HAVE BEEN BLIND」は、4th『BLUE AFTERNOON』に、「MORNING GROLY」は2nd『GOODBYE AND HELLO』に収録されている。
晩年の作品はやや散漫な印象もあるが、それ以前、特に初期から中期にかけての作品にはなんとも言えない透明感と叙情がある。更にこの人は曲の良さもさることながら声が素晴らしい。低音から高音まで安定して伸びのあるヴォーカルは驚異的である。スタジオアルバムも良いが、ライヴアルバム(何作かあるが『DREAM LETTER』がお勧め)ではよりいっそうその素晴らしい声を満喫できる。
ちなみにTHIS MORTAL COILのカバーでは、「SONG TO THE SIREN」でエリザベス・フレイザーが本家にも劣らぬヴォーカルを聴かせてくれる。ブルガリア民謡の唱法にも影響を受けた彼女独特の節回しで歌われるこのバージョンも捨て難い。「I MUST HAVE BEEN BLIND」はRICHENELという男性によるヴォーカル、「MORNING GROLY」では、DEIDRE RUTKOWSKIという女性ヴォーカルによって歌われているが、どちらも比較的原曲に近いイメージ。こちらも独特の味わいがある。

◆アレックス・チルトン◆
BOX TOPSというグループのリードヴォーカルとして、アイドル的なデヴューをした人であるが、その後はどちらかと言えば裏街道一直線(笑)という感じの人生を送っているようだ。70年代にはBIG STARという伝説的なグループを結成していたが、その解散後はもっぱらソロとしていろんな意味でユニークなアルバムを作り続けている。再評価後は、特にグランジ世代の絶大な支持を受け、TEENAGE FUN CLUBと一緒にツアーをしたりもした。
THIS MORTAL COILのカバーは「KANGA ROO」と「HOROCAUST」。
2曲とも、BIG STARの3rdアルバムの曲であるが、静かな、もの悲しい感じの曲で原曲に比較的忠実な演奏である。元のアルバム自体は決してそういう曲ばかりではなくて、むしろポップな曲の方が多いのだが、なぜかとりわけ暗い2曲が選ばれている(笑)。まあ、THIS MORTAL COILの音楽性にはその方がマッチしたからだろうが。
私がTHIS MORTAL COILにはまった頃は、BIG STARのアルバムはCD化されていなくて入手できず、代わりに(と言うかALEX CHILTONの名前だけを頼りに)、『HIGH PRIEST』というソロアルバムを入手した。これはBIG STARとは、ましてやTHIS MORTAL COILの音楽性とは程遠い、いい意味で肩の力が抜けまくったサウンドだったのだが、これにまたはまってしまい、しばらくの間ALEX CHILTONを必死で捜索するような日々が続いた、そんな事もあったなあ…。
ちなみに、一昨年出た彼の今のところ最新作のタイトルは『LOOSE SHOES AND TIGHT PUSSY』(^^;。う~む、彼らしい…。

◆ロイ・ハーパー◆
これまたアレックス・チルトン同様、「裏街道」系の人である(笑)。イギリスのフォークシンガーであるが、知る人ぞ知る伝説の人でもある。レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジが、ロイ・ハーパーの熱心なファンで、3rdアルバムの最後の曲を「HATS OFF TO (ROY)HARPER」(ロイ・ハーパーに敬礼)と名付けているとか、何度か共演しているとか、ピンク・フロイドの『炎』の中の「葉巻はいかが」はこの人がリード・ヴォーカルだとか、どちらかと言えば「ミュージシャンズ・ミュージシャン」的な存在であるようだ。
もっとも、私自身は、2,3枚アルバムは聴いてみたものの、今ひとつはまることができなかった。
そう言う訳で、THIS MORTAL COILのカバーした曲「ANOTHER DAY」もオリジナル曲は実は未聴だったりする。カバー曲自体は、結構好きなんだけどねえ…。

◆ジーン・クラーク◆
言わずと知れた、バーズのオリジナルメンバーの一人だった人である。初期のバーズに置いては音楽面でイニシアチヴを取っていたが、その後脱退した(飛行機が嫌いでツアーに出るのを嫌がったためとか言われているが結局はバーズが「ロジャー・マッギンのグループ」になってしまったからだろう)。脱退後はソロアルバムを作ったり、ダグ・ディラードとDILLARD&CLARKというデュオを組んだり、またバーズと一時的に寄りを戻したりと色々と活動していたが、結局あまり表に出ることなく、1991年に亡くなった(合掌)。
THIS MORTAL COILのカバーは「STRENGTH OF STRINGS」と「WITH TOMORROW」の2曲。う~ん、渋いッスねえ。「STRENGTH OF STRINGS」の方は、3rdソロアルバムの『NO OTHER』収録。この『NO OTHER』というアルバム、いささかアレンジが過剰なので、2ndソロ『GENE CLARK』(通称『WHITE LIGHT』)あたりのシンプルさを好む人にはイマイチ受けがよくないのだが、個人的にはなかなか好きである。少なくとも、THIS MORTAL COILの音楽性には合っていると言える。ヴォーカルは、2ndアルバムで一番活躍しているDOMINIC APPELETON、この人のヴォーカルは深みがあって素晴らしい。
「WITH TOMORROW」の方は、『WHITE LIGHT』からの曲。個人的にはアルバム中一番好きな曲だ。このカバーについては、先にオリジナルの方を好きになっていたので、オリジナルがどう料理されているかという、カバー曲の本来の楽しみ方を味わうことが出来た(^^;。ティム・バックレーの「MORNING GROLY」と同じ、DEIDRE RUTKOWSKIのヴォーカルでなかなか味わい深い。がやっぱり原曲には負けてるなあ。

何時の頃からか、「再評価」なるものが一つのムーヴメントのようになっている。忘れ去られていた音楽家や曲を発掘して、評価する作業そのものは尊ぶべきだが、「再評価」したものを自分があたかも発見したような態度を取る人達がいるのはいただけない。数は少なくとも、表には出てこなくとも、「評価」し続けていた人達はいる筈である。今の状況は、「再評価したもん勝ち」のようになってしまっている。
もう一つ、好きだと思うものに「オマージュ」を表する、というやり方もある。これは単なる「再評価」ではなく創作活動である点ではマシだと思うが、行き過ぎると「オマージュ」の名を借りた「パクリ」になってしまう。
その点で、あくまで「カバー」という形にこだわって、しかもただカバーするだけでなくそれをしっかり消化しているTHIS MORTAL COILのやり方は潔いと思う。別にこの曲は誰々の何という曲のカバーだなどと言うことを意識しなくても十分楽しめる。しかも、クレジットを読んで「元の曲はどんなだろう?」という疑問を持てばそこからオリジナルの豊かな世界へ飛び込むことも可能なのだから。

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