書籍・雑誌

2005.07.04

湯川新『ブルース 複製時代のフォークロア』(法政大学出版局)(7/4)

ブルースの解説本というと、どうしてもブルースマンの評伝的なものになったり、ブルースが生まれた背景を探るみたいな文化論的なものになりがちだ。この本も「複製時代のフォークロア」というサブタイトルだけ見ると文化論的なもののようだが、読んでみると全然違った。作者の興味は、一貫してブルースの曲(と歌詞とそれを演奏する楽器)に集中している。第1章の最初のほうこそ、ブルース誕生の背景的なことが書かれているがすぐに具体的なブルースの曲および演奏家の話に移る。
とにかく、具体的な曲の楽譜と歌詞がふんだんに引用されているのが特徴だ。楽譜の読めない身にとってはちょっと辛いところもあるが、歌詞に関する考察はそれを補って余りある面白さだ。正直、ブルースを聴いていてもあまり歌詞を意識したことはないのだが(ブルースに限らず洋楽全般そうだが)、歌詞を意識しながら聴いてみるのも面白そうだ。と言ってもほとんど輸入盤で買ってるからそもそも歌詞カードがないんだが。ヒアリングできるほど英語力はないし。
ひとつだけ残念なのは、ブルースについての記述がエレキが登場したあたりで終わって、その次はチャック・ベリーとロックン・ロール創生期に話が行くこと。エレキ以降の、モダンブルース期についても読んでみたかったのだが、作者の興味はそこにはないのかもしれない。
正直これからブルースを聴いてみようという入門者には勧められない。ある程度ブルースを聴き込んで、ブルースというこの音楽の魅力はどこから来るのだろうかと不思議に思っている人向けである。

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2005.02.25

飛鳥部勝則『冬のスフィンクス』(光文社文庫)(2/24)

自作の絵画を口絵にし、作中にも取り入れるというちょっと変わったミステリ作家、飛鳥部勝則の5作目にあたる長編。本作の主人公盾経介は、寝る前に絵を見てから眠ると夢の中でその絵の中の世界に入れるという特技の持ち主。ある日、州ノ木正吾という画家の絵を見てから入った夢の世界で奇怪な殺人事件に巻き込まれる。なんとかその夢から覚めるものの、そこはまた別の夢の世界だった...。
という具合で、話が進むにつれどこまでが夢でどこまでが現実なのか判らなくなってくる。ミステリというよりは幻想小説としての側面が強い(一応、作中の殺人事件に関する謎解きは行われるが)。ちなみに本作はこの著者の前作『砂漠の薔薇』(光文社文庫)の姉妹編のような位置付けになっていて、登場人物も何人かは共通している。ストーリーには直接のつながりはないのでどちらを先に読んでも差し支えはないが、続けて読むとより面白く読めるだろう。

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2005.01.07

べつやく れい『しろねこくん』(小学館)(1/6)

しばらく前から探していたべつやくれいさんの絵本をようやく入手。内容の方は「語呂合わせ絵本」と表紙にある通り、「ねこ△○○」(△=助詞、○○=動詞)というキャプションが1ページに1つ書かれ、そのキャプションに合った絵が描かれている。例えば「ねこはきく」→「ねこときく」のようにキャプションが微妙に変わってゆき、それによる微妙な起承転結具合が楽しめるという寸法である。「ねことにる」というのが出てくれば「いいか、「を」はやめろよ!「を」は絶対止めろよ!!」などとダチョウ上島風にひやひやしながら楽しむことも可能だ。
絵に登場するのはロングヘアの女性(「れい」という名らしい)と主人公のしろねこ(「しろぞう」という名らしい)。ユーモラスでほのぼのとしているがそこはかとなく毒があるような絵柄で味わいがある。
ちなみにデイリーポータルZの最新の小ネタ「ティッシュたくさん下さい」の一番最後にはべつやくれいさんの飼い猫と思われる猫の体がほんの一部写っているが、白猫ではなく茶虎っぽい。

それから、読み終えたらカバーをめくってみるのを忘れるなよ!

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2004.12.31

森博嗣『六人の超音波科学者』(講談社文庫)(12/30)

Vシリーズ7作目。舞台は人里離れた山中の超音波科学研究所。パーティの最中に例によって起こる殺人。しかも外界へ通じる唯一の道路は橋を爆破されて通行不能に。パーティに招待された者といつものごとく偶然に(必然に?)居合わせた者たちが真相の解明に挑む。
今回はあまりひねりがないというか、わりとストレートにミステリしている感じ。登場人物たちのキャラもすっかり固まった感があり、ある意味マンネリとも言えるが、むしろそのマンネリ感が心地よい。しかし、次作あたりでまた波乱がありそうな予感がひしひし。

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2004.12.02

森博嗣『恋恋蓮歩の演習』(講談社文庫)(12/1)

Vシリーズ長編6作目。森博嗣の本はこのところ鬼のように出ていてとても全部は読み切れない。というかここ2作ぐらいどうもいまひとつ面白くない、というか乗り切れない感じがしていた。特に講談社文庫で直前に出た短編集『今夜はパラシュート博物館へ』を読んで(実はまだ最後まで読み終えていないのであるが)、この人はミステリという小説のスタイルを放棄しようとしているのではないか?とさえ思った。もちろんミステリというスタイルにこだわる必要はないのだけれど、それにしては中途半端にミステリっぽい格好をつけているようでどうも好きになれなかった。
そんな訳で本作も文庫化されてからけっこう長い事放って置いたのだが、まあメインシリーズぐらいは読まんとあかんかなあと思ってようやく買って読んでみた訳だが、読んでみるとなんのことはないいつも通りの面白さで、ミステリとしての魅力も十分に備わっている。ただ今に始まった事ではないが、メインのストーリー以外の、サブストーリーのようなものは前作、前々作から引き継いでいるものが多く、言ってみれば「連作長編」といった趣になっている。このシリーズを始めて読む人は素直に1作目から読む事をおすすめする。

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2004.11.14

都築道夫『退職刑事 1』(創元推理文庫)(11/14)

かつては硬骨の刑事であったが、すでに退職して久しい父親が、息子の現職刑事の元を訪れ、現在手がけている事件の話を聞くだけでその事件を解決してしまうと言う、典型的な「安楽椅子探偵」のスタイルによる連作短編集。
この前読んだ山田正紀の『蜃気楼・13の殺人』(光文社文庫)の解説の中でちらっと名前が出てきたので興味を惹かれて読んでみた。都築道夫の作品はまともに読むのはこれが初めてである。
この人の持ち味なのか、発表された媒体の性質上なのか、普段読んでいるような新本格ミステリではあまり出てこない生々しい表現や会話にちょっと戸惑ったが、まあ慣れれば気にならないレベル。文庫本で30〜40頁くらいの短編であるが、その尺の中で冒頭で魅力的な謎(例.全裸に男物のブリーフ1枚で殺されていた女、ジャケットを着た上に背広2枚をむき出しで抱えた青年等)を提示し、そこから話を広げた上でやや強引とも思える展開によって解決に至る構成はさすがに見事である。
ただ話によっては技巧に走りすぎるというか、論理をもてあそぶようなところが見られて興ざめするようなところがある。上手くいった場合は非常に魅力的なのであるが…。
あと、ほとんど親子二人の淡々とした会話だけで話が進行するので、1冊通して読むとちょっと飽きるところがある。あまりまとめて読まないで、気の向いた時に1編づつ楽しむのが良いような気がした。

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2004.11.05

山田正紀『蜃気楼・13の殺人』(光文社文庫)(11/4)

1990年に書かれたミステリ作品。作者によって再刊を「封印」された形になっていたが、2002年に加筆した上でようやく文庫化されたもの。
東京での生活に挫折した一家が山間の村に移住してくるが、そこで様々な事件に出くわす。密室同然のマラソンコースから13人の人間が忽然と消え、その内1人が死体で発見されるが、ふたたび姿を消してしまう…。トラクターの下敷きになって死んでいる男が発見されるが周辺の空き地にはトラクターの車輪の後が全く見つからない…。しかもこれらの事件は村に伝わる古文書に書かれている内容と不思議に一致するのだった…。
こう書くと伝奇ミステリのように思えるが、実際には伝奇ミステリ的なところは少なく、むしろ社会派ミステリというべきだろう。作品中で提示される謎・その解決ともに魅力的であるが、評価が分かれるとすれば、通常のミステリのように結末で一気に謎が開示される訳ではないところだろうか。他の作品で探偵として活躍する風水林太郎が最初と最後に登場するのだが、特に謎解きをする訳ではない。謎解きは、東京から移住してきた一家の父親と祖父が行うのだが、それも協力して行う訳ではなく、個別に、しかもばらばらと小出しに行われる。
そういうストーリーになっているだけあって、ミステリ特有の謎解きによるカタルシスという要素は少ない。むしろ、徒労感、虚無感といった読後感が強いのだが、しかし山田正紀氏の作品を読んだ事のある読者なら判ると思うが、氏の作品ではそういった読後感はおなじみのものだ(デビュー作である『神狩り』からしてそうだった)。そういう意味では非常に山田正紀らしい作品といえる。

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2004.10.30

エドワード・D・ホック『サム・ホーソーンの事件簿III』(創元推理文庫)(10/29)

多芸多才なミステリ作家、エドワード・D・ホックによるシリーズ短編「サム・ホーソンもの」の第3短編集。アメリカの田舎町、ノースモントを舞台に、町医者のサム・ホーソーン先生が次々と巻き起こる怪事件を解決していくというものであるが、1974年に第1作が発表されてから今年まで30年間書き続けられ、全部で65篇もの作品が発表されているという息の長いシリーズである。本書にはその25篇目〜36篇目までが収録されている(シリーズ外の短編も1編収録)。
しかも、作中での時間設定も、作品の発表順に時系列になっている。ストーリーそのものは1話完結だが、主要人物が死んだり結婚したりという設定は引き継がれていくので、ノリとしては長尺連続TVドラマに近い。ちなみに第1篇での作中時間は1922年3月という設定。最新話(巻末の解説による)第65篇では1942年10月が舞台なので、20年と7ヶ月が経過したことになる。3.8ヶ月に1回、事件に遭遇している計算だ。
1編がかなり短めなので、話の印象としてはわりと淡泊というかあっさりしている。毎回披露されるトリックはなかなか見事だが、1,2篇読むだけでは正直物足りない。やはり1作目から続けて読んで、作中でのゆったりとした時間の流れを楽しむのが良いと思う。

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2004.10.18

篠田真由美『美貌の帳』(講談社文庫)(10/18)

建築探偵桜井京介シリーズの6作目。筆者による「あとがき」によれば前作までが第一部、今作からが第二部、という位置づけになるそうだ。
前作『原罪の庭』で、重要なサブキャラである「蒼」の出で立ちが描かれ、彼についての謎が一応解かれた、ということでの第一部完結なのだろう。とすれば今作で始まる第二部ではある意味「蒼」以上に謎が深そうな主人公桜井京介についての謎が解き明かされるのかも知れない。もっとも私の場合文庫化されてから読んでいるので、実際には講談社ノヴェルズ上では既に10作目(短編集含む)まで進行しており、その答えは既に出ているのかも知れない。
ミステリとしての感触は、シリーズものとしての調和を乱さない感じでそつなく描かれている(強いて言うならやや平坦な印象がないでもない)。「建築探偵」シリーズだけあって毎回「建築」が謎解き上重要な要素になっているのだが、今作ではいまひとつその要素が薄いな、と思っていたら結末でしっかり意表を突く形で絡んできたのは見事。

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2004.10.03

安田謙一、市川誠『すべてのレコジャケはバナナにあこがれる。』(太田出版)(9/30)

MSN-Mainichi INTERACTIVEで連載中の贋作系表紙美術館という企画を単行本化したもの。レコードのジャケットを2種類(もしくは3種類)掲載し、その比較を楽しむ、というものだが、中身は完全なパクリからそういえば似てるね、というもの、失礼ながら著者の思いこみじゃないの?というレベルのものまで様々。特に似ているという訳ではないが、二つ並べてみると興味深い、というようなものもある。
この、無理矢理似ているところを探そうとしないゆるいというか良い意味での適当さが読んでいて気持ちよい。一気に読むのではなく気が向いた時にぺらぺらめくってみるようなスタイルの読み方が向いているかも知れない。
ちなみに個人的には、しばらく前に出た宇多田ヒカルのシングル曲集のジャケットが、なにかに似ているような気がしてならなかったのだが、本書を読んで何に似ているのかという疑問が氷解した。その答えは・・・、気になった人は書店で立ち読みでもしてみて下さい。

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